ヨーロッパの旅 ’96

期  間  : 平成8年11月2日〜16日(15日間)
国(都市) : イギリス(ロンドン)・ドイツ(デュッセルドルフ)
オーストリア(ウィーン)・イタリア(ローマ)
スイス(ジュネーブ)・フランス(パリ)
国際化社会と言われながらも、あまり実感の伴わない、言葉だけのことで終わりがちでしたが、実際にヨーロッパの国々に降り立ち、町並みを見て、人と接し、食事をして、買物をする。こうした体験をとおして、外国が身近に感じられるようになり、実感の伴った国際化の視点のもとに、物事についての判断力が向上したと、自分自身でも分かるほど、今回のヨーロッパ旅行は、意義深く、かつ貴重な経験であったと確信しています。
ここに、旅して感じたこと、経験したこと、学んだことを報告します。

日本・欧州の通商関係について

対日主要輸出品目としては、自動車、医薬品、ブランド衣料があり、逆に対EC(現在EU)へは、自動車、事務機器、電気通信機器などを主体に輸出している。日本からの輸出額は対日の約2倍、570億ドルである。しかし、サービス貿易を含むことにおいて、日本の収支は約500億ドルのマイナスとなっている。
90年以降、我が国の貿易はアジアへと伸びている。
対ECへの直接投資を見ると、94年までの累計でイギリスが270億ドルと4割を占め、次にオランダ、ドイツ、フランスの順で、イタリアは8位の2億ドルである。これは英語圏であることも原因の一つのようである。日本企業の対外直接投資、93年には欧州22%、アジア18%であったが、翌94年には欧州15%、アジア24%と逆転した。対ECへの直接投資額については89年、現地法人数では90年をピークにいずれも減少している。
進出企業を業種で見ると、商業が約4割で、そのほとんどが商社である。
製造関係企業の経営動向をみると、94年では黒字企業が50%を超え、前年より改善傾向を示している。また、円高等の理由から、企業の過半数が70%以上、部品や材料の現地調達を行い、その主な調達先はアジア、東欧が急速に拡大している。
欧州内での魅力ある生産拠点は、イギリス、チェコ、スペイン、ポーランドの順で、中東欧のEU加盟の動きから、同地域から部品調達や製品輸出先としてのみならず、新たな生産拠点として注目されている。
日米がアジアへの参入をいっそう促進しているのに対して、EUもその積極性が顕著である。高度経済成長が著しいアジアを、市場及び生産拠点として捕らえ、また潜在的な競争相手として位置付けている。
本年3月には、バンコクにおいて第1回目のアジア・欧州首脳会議(ASEM)が開催された。これは、APECに対抗して、そのメンバーである北米を除く、アジアと欧州委員会、25カ国の参加であった。欧州の産業界は、アジアに対して非常に強い関心を持っている。日本に対しても「GATEWAYTOJAPAN」と輸出促進キャンペーンを展開している。

欧州の産業・経済事情について

欧州の経済統合が93年1月に行われ、通貨同盟(ユーロ)が99年にスタートされようとしている。(99年1月1日に予定通り、統一通貨がスタートされた。)経済の共同体として出発したが、今日では外交政策にまで至っている。
94年、95年と欧州では比較的景気がよい。市場の自由化、民営化、企業再編成の動きの中で、電力と通信部門は活発である。
これまで欧州における中小企業対策は、日本のように手厚い指導が行われてはいなかったが、雇用創出をはかる必要性から、中小企業育成への理解を示し、国の政策が動きだした。
来年の景気は上向きを示しているものの、財政赤字の打開策はなく、厳しい状況を迎え、税制や社会保障の見直しを余儀なくされている。
戦後50年を経過した現在、EU諸国も日本と同様には新しい動きがみれれる。
各国の中小企業の特徴をあげると、

ドイツ・・・・・・国内での高い付加価値を持つ製品を製造。マイスター制度。産地型企業集積による陶磁器産業が、その他の機械工業や製材業の発展を牽引している。

オーストリア・・・事業を行うために必要な資格制度・マスター制度が設けられている。これは商工会議所で試験を行い、資格が与えられるものである。国内だけの資格ではあるが、EU圏では公認されている。

イタリア・・・・・伝統的な家族主義での経営基盤の維持。
産地集積における機械産業の連携による高技術水準を維 持。分業形態をとることで技術水準向上に専念。
フランス・・・・・伝統的手工業48種の職業に資格試験を設けたアルティザン制度がある。食品、衣料、家具の部門において中小企業の製品に関心が高い。
中小企業施策の一つとして、国際競争力を高めるために、 中小企業のグループ化施策がある。

ドイツ統一の影響について

統一後6年を経過しているが、東西の格差は縮小傾向にあるものの、まだまだ残っている。購買力でも差があり、賃金で見ると、東が41マルクで、西(59マルク)の70%位である。
経済的な問題としては、
@雇用問題では、94年の始め、一時400万人を超える失業者を出した。西で280万人の8%、東で120万人の14%の失業率である。
A財政難の問題では、西から東へインフラ整備として、年間約1500〜1600億マルクの負担を抱えている。
B産業立地問題では、企業の東南アジアへの進出により、空洞化を招き、失業率が高くなっている。
CEUの通貨統合の問題がある。
また、長期的に見た場合の問題として(日本も同様であるが)、
@高齢化社会への対応
A高度情報化社会対応へのインフラ整備
B環境保全問題がドイツ経済への大きな課題となっている。

労働状況について

欧州はバカンスとして、夏3週間、冬2週間の休暇を取るのが平均的である。
EUでは、週38時間の労働時間を設定しているが、現在のところ、各国ともそれぞれ違っている。
イギリス・・・・・法定労働時間の規制はなく、欧州の中でも比較的長い労働時間で約週43時間。職場への女性進出と、パートタイム労働者の増加が顕著である。失業者が243万人、8.7%と失業率が高く、その内1年以上の長期失業者も総数の3割と高い。
ドイツ・・・・・・所定労働時間は、週35〜38時間程度である。しかし、産業の空洞化や自己雇用を守るために、実労働時間は延長の動きがある。労働交渉は業種別に行うため、都市と地方、大企業と中小企業の格差はなく、給与体系も同じである。特にドイツは外国人労働者が多く、人口の8.6%、700万人で、15年以上の滞在者が約半数いる。人種としては、トルコ人192万人、イタリア人56万人の順である。
オーストリア・・・法定労働時間は、週40時間であるが、部門によっては36時間のところもある。しかし、全体的に労働時間は伸びる方向にある。
イタリア・・・・・法定労働時間は、週48時間で、所定労働時間は週40時間が通例である。失業率は95年において12%と高い。
スイス・・・・・・所定労働時間は、週41時間程度である。外国人労働者が多く、3Kにあたる仕事に従事している。
フランス・・・・・所定労働時間は、週39時間であるが、仕事の内容やその人のやる気によっては越える人も少なくない。社会保障負担の軽減のために、7年間の期間を設けて、新たな雇用を創出しようとする法律、ロビアン法を制定。税による歳入増加。歳出減少、活動人口増大、景気回復と各種政策を検討している。

商業環境について

小売業の営業時間の見直しの動きが、欧州諸国に見られる。
イタリア、フランスは、日曜と月曜の午前中だけ店を閉め、ドイツは、閉店法で土曜、日曜が閉店である。
イタリアでの商店の営業時間は、法律でガイドライン(週44時間の営業で、週1回半日の休業、開店午前9時から、閉店午後8時まで)を示し、営業時間を州政府が、開店、閉店時間を市町村長に委ねている。しかし、一般の小売店の平均的な営業時間は、週72〜74時間である。
フランスには閉店法なく、慣習によって営業時間が守られている。クリスマスのバーゲン時期などについても同様で、慣習としての規制はある。
73年に制定されたロワイエ法は、日本の大店法によく似たもので、今年の7月に一部改正された法律である。その内容は人口に関係なく、売場面積1千u以上、また食品であれば300u以上になるものは、審査の対象となり、建築前に許可申請が必要となる。日本での大店審にあたる、県商業整備委員会のメンバーは7名で、その内4名が裁判官で、3名が流通業地元業者と消費者である。二審制であるため上告すれば、国家商業整備委員会で審議されることになる。この法律は、出店を規制するのではなく、地域環境の保全に努めるために、大型店の出店をコントロールすることを目的としている。

再開発(ドッグランド)視察について

イギリス中央政府により、開発公社のゾーニングを基に、81年から13年間にかけて、テムズ川河口の、旧コンテナ港湾を再開発している。33自治体の内、3自治体にまたがる大規模開発で、1番に雇用創出をはかるためのオフィスビル、住宅建設、レジャー設備を伴ったものである。インフラ整備を政府が担当し、民間の手で建物投資が行われている。民間投資60億ポンドの内、半数が外資によるものである。都市の中の都市を建設。

三菱セミコンダクター社視察について

ドイツのデュッセルドルフに進出している、半導体製造企業を視察。海田社長から会社の概要について説明を受けた後、白衣をまとい工場内を見学した。
社長の説明の中で、四国計測工業の名前が出た。同社では愛媛県の今治にも工場を持っている関係で、お知り合いのようである。遠く離れたドイツにおいて、地元企業の名前を聞くことができ、非常にうれしく思った。
同社は、90年に現在地において4億円の投資により、土地30万uを購入、社屋工場を建設。92年にはパソコンのメモリー4Mを製造、95年に16M、来年の97年には中間製品を自社で製造することを前提に、投資を行い人員の増員を予定。従業員も95年では220名であったのが、今年に入って400名となり、現在では485名と増えている。輸出先は、EUの他、アメリカ、シンガポール、台湾、オーストラリアで、メーカーとしては、IBM、フィッリップス等である。
ドイツは特に環境面で厳しい制約があり、木々を伐採すれば、それだけ企業にペナルティーが課せられる仕組みになっている。従って、敷地30万uの内、現在1/3だけを使用して、残りは周囲の農家に貸しているとのことである。海外進出が成功している模範的な企業といえる。

欧州諸国の街づくりについて

今回の海外研修では、参加者それぞれが研修テーマが持ち、それを中心に視察研修を行いました。この報告書のまとめとして、私が取り上げたテーマである「街づくり」についてのレポートを掲載し、海外研修の報告とさせていただきます。

『欧州諸国の町並みに学ぶ、街づくりの基本』

欧州諸国の都市は、それぞれに異なった歴史を持ち、伝統を持ち、顔を持っているが、街づくりを見た場合、我が国とは基本的に異なり、そのほとんどが「環境づくり」の考えからスタートしている。百年ほど前から基幹的インフラの整備として、市民の保健衛生面から考えた上下水道の整備など、生活に直接関連したことから始められている。輸送機関をみても馬車が主流であったことから、道路計画もそのスケールに合わせて行われ、道路幅も馬車の規格に合わされている。現在でもよく見かける、中庭のある店舗や住宅への入口アーチの高さや幅は、馬車から自動車に変わった現在でもそのまま使われている。
欧州で見かけた美しい街に共通していることは、自然景観を生かしたところにある。親しみをおぼえる街はその都市景観に歴史が感じられる。古い建物は、単にノスタルジーだけで保存しているのではなく、コミュニティを守り、長い年月を通して培かわれた街の秩序を急には変えたくないという考え方が、結果として街の賑わいを続けさせているのではなかろうか。
市民の心が、調和を破る急激な街の変貌を拒み、文化財の保護に日本では想像もできないほどの理解を示し、協力を惜しまない意識やルールとなっていると思われる。街を愛する心情、その連帯感、美や調和に対する全体としての感覚、意識の程度を充分に感じとることができた。
ロンドンやウィーン、パリ、ローマの町は、古くからの都として数百年の歴史の上に今日の姿がある。ここを訪れた人々が、その独自の雰囲気に浸って、華やかな気分になれるのも当然のことであろう。
しかし、町並みや建物が古ければ良いと言うものでもない。そこに現代の機能とセンスがなければ活性化しないであろう。今回、欧州の古い町並みを見ると同時に、いくつかの開発地も視察することができた。よく企画され整備された文化娯楽施設やオフィスビルがつくられ、美しい広場を挟んでショッピングセンターがあるといった所も見せてもらった。いかにも快適で利便性がある。周辺の再開発も進行しているが、変化のある外装と自然がしっくりマッチしている。実によく計算され、合理性を追求したものと感心させられた。
本来、社会の価値感の変化は、こうしたフレキシビリティのある街づくりを求めているものと考えられる。古いものと新しいものが混沌とした、アンバランスな状態の中に真の街の姿があるのかもしれない。我々は、もっと「我が街」の意識の下に、他を参考にしながらも地域のシーズを活かした独自性を出し、百年、千年の先までも人の住む街として、魅力あふれる街として、街づくりを考え、常に原点に返りつつ数ある手段の中から、施策の取り組みをじっくりとすすめて行く態度が重要視される。
何の欠点もない完璧な町並みがあるとしたら、おそらくつまらないものだろう。町並は人間と同じようにそれぞれ個性があり、矛盾したところがあって自然なのである。もし、全ての人を満足させる要素が揃っている街があるとしたら、その街は無性格で本当は何も満足させることができないのではないか。
これからの街づくりは、都市機能の多様性をいかに豊富に盛り込むかにある。機能を分離する街づくりから、多くの機能を組み合わせて相乗効果をもたらすことになり、活力あるインテグレートした街を目指すことができるのではないか。また、その取り組みは、市民・企業・行政が結びつき、それらの総合力が生かされることが理想であり、その目標を意識した個々のプロジェクトを計画的に推進させることが肝要である。
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大通りはモザイク模様の石畳で舗装され、いたるところにベンチや噴水、彫刻、ショーウィンドが配置されている。新聞や花、絵はがき、煙草店等のスタンドが路上営業をしている。特異なデザインの街路灯は商店街に誘導するサインを兼ねており、州・市の色鮮やかな旗が街に彩りを添えている。両側の商店街や百貨店には街の雰囲気を破壊する看板やネオン類はどこにも見あたらない。電線や電話線は全て地下ケーブル化されており、古い建物もそのまま活用されている。障害者に対する建物構造上の配慮やペット類を自由に売り場に連れて入れるなど、楽しく行き届いた配慮が随所に見られた。
こうした欧州の町並みの個性は、地域の風土に根ざして、そこに住む市民がつくりあげてきたものであろう。風土に根ざしたボキャブラリーこそが、地方の時代にふさわしい町並みを創ることになるものと確信する。
魅力ある、個性ある、歴史ある、美しい街づくりを、欧州諸国に見ることができた。