「なあ、この辺りに洞窟があるみたいなんだけど知らねえか?」
「洞窟?そんなの見たことねえなあ〜」
 ジューンたちが黒魔道士の村を出てから数日後。
彼らは、森を抜けて、小さな家々が列ぶ広い平原へ出たのだが、
何処へ行っても『ディオーネの宿る洞窟』と思わしき情報は全く見つからない。
それどころか、この平原には洞窟さえ見当たらなかった。
 先ほども、宿屋に行って主人に聞いてみたのだが、今まで聞いてみた人達の答えと全く同じであった。
「はあ〜・・、何でこんなに歩き回っても見つからないんだろうな〜・・」
 ルナは、宿屋のベッドに思いっきり倒れこんだ。疲れていたのだ。
もちろん、ジューンもクリスも同じくらい疲れているのだが。
 すると、ベッドに腰かけたままずっと黙りこんでいたクリスが、口を開いた。
「もしかしたら・・、直接洞窟が目の前にあるわけではないのかもしれませんね・・」
「え?どういうこと?」
「古い小説で読んだことがあるのですが、昔の人々は、遺跡の中に隠し通路を造って、その中に宝を隠したそうなんです。
そして、その隠し通路は、近くにある像を動かしたら出てくるという仕組みに――」
「それだ!」
 突然ジューンが叫んだ。あまりにも大きな声だったので、クリスとルナだけでなく、宿屋の主人まで驚いていた。
「クリスの言った通り、洞窟が最初から目の前にあるわけじゃないんだ!」
「はあ?」
 ルナは、クリスの話さえよく理解できていないのに、ジューンが何を言いたいのかもさっぱり分からなかった。
「そういえば、この平原を歩いている途中で、『天馬の壁』というのを見かけましたよね。
ひょっとしたらそこから、洞窟へ行くことができるかもしれません!」
「よし!善は急げだ!」
 そう言うや否や、二人は足早に宿から外へ出ていってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!あーもう、どういうことなのかさっぱり分かんないじゃん!」
 ルナは、急いで二人の後へついていった。
 
 
 
 
 
「でも、この壁・・・どうやったら開いたりするのでしょう?」
「『開け、ゴマ!』って唱えても開くわけねーよなあ〜・・・」
 天馬の壁。それはペガサスの如く煌びやかな大理石から造られていた。
人々がこの平原に移り住んだ頃から存在していたみたいだが、誰がどのような目的で造ったのかは不明である、
とジューンたちは聞いた。
「何だかこの壁見上げてたら、懐かしい気持ちになってきたなあ・・・」
「ルナ?」
「ルナちゃん?」
 二人は、ルナが様子の違うことに気付いた。しかし、ルナは返事をしない。
 すると、ゆっくりとした歩みで壁の方に近付いていったのだ。まるで、壁に惹き付けられるような感じであった。
 そして、そっと片手を壁に触れた。
 その時だった。
 壁が突然、大きく震動し始めたのだ。
「きゃあ!」
 ルナは我に返り、急いで壁の方から離れていった。
「もしかして、ディオーネっていう人の魂が、同じ黒魔道士であるルナを受けいれたんじゃないか・・?」
 ジューンたちは体を伏せて、大きな震動に耐えようとした。
「あ・・、壁が・・開き出しています!」
 
 
 
 いつの間にか、震動はすっかり止んでしまっていた。
「もう大丈夫みたいだ・・」
 三人は、ようやく体を起き上がらせた。
「壁はどうなったのでしょう・・?」
 見ると、壁の真ん中が大きく開いた状態となっていた。そして、その壁の向こうには――
「洞窟だ!」
 彼らの目指すべき場所が、確かに存在していたのだ。
「行くぞ、みんな!」
「はい!」
「行こう行こう〜!」
 ジューンが元気よく掛け声を上げると、クリスやルナもそれに続いた。そして、彼らは壁をぬけ、洞窟へと足を進めていった。
 
 
 

「探す手間が省けて助かったわね、ラルフ」
 二つの人影が、壁の後ろに現れていた。
 一人目は、紫色の髪を持つ少女で、何処かクールな雰囲気を漂わせている。
「うん・・さて、道案内させて頂くとするよ、ジューン」 
もう一人目の、ラルフと呼ばれた青年は、青い髪をしている。
しかし、青年の割には妙におっとりとした声で、少女と間違われてもおかしくないような感じであった。
「そして、貴方が本当にノエルなのか確かめるために、私達は戦わなければならない・・」
 
 
 


 洞窟の中は薄暗く、ひんやりとしていた。
時々、長年潜んでいたコウモリが天井から突然登場することがあったが、それ以外は、全く危険のない道のりであった。
「宝も全く見当たらないなあ〜・・」
 ジューンが今まで旅した洞窟にはたいてい、ギルやキーアイテムの入った宝箱が置いてあったりしていた。
しかし、この洞窟には全く見当たらない。もっとも、宝が目的でこの洞窟に来たわけではないのだが。
 暫く歩いていると、洞窟の壁に来てしまって行き止まりになってしまった。
「今度は手で触れても開かないな〜」
 ルナは先ほどの天馬の壁を開いたときと同じ行動をしてみたが、無駄であった。
「一旦戻るしかないか〜・・」
 ジューンがそう言い掛けたときだった。
「あのう・・右側にある壁、何か妙じゃないですか?」
「え?」
 よく見ると、右側の壁には、少しだけ穴が開いていたのだ。
「穴の中に、隠し通路が出てくる仕組みでもあるのかな?」
 ジューンは、その穴の中に手を入れてみた。
 と、その刹那、
「うわああ!!」
 いきなり、大きな悲鳴を上げたのだ。とっさに、穴から手を出した。
「ど、どうしたんですか!?」
「穴から電気みたいなのが走ってきたあ〜!うう・・死ぬかと思ったよ〜・・」
 彼は、ジタバタと子供のように転がりこんでしまった。
「ひょっとしてさ〜、ジューンは黒魔道士じゃないからディオーネさんが怒っちゃったんじゃない?」
 
 ジューンの興奮がやっと治まった後、次はルナが穴の中に手を入れてみた。そして、呪文のような言葉を唱える。
「この洞窟に眠る高貴な魂よ、我々を受け入れ賜え・・」
 すると突然、穴から大きな光が現れてきたのだ。
「な、何?この光・・!」
 三人は、あまりの眩しさに思わず目を覆った。
 だが、すぐに光は消えてしまった。その代わり――
「壁が消えてる・・」
「隠し通路ですね」
 壁の向こうにあったのは、真っ直ぐに続く小さな通路であった。遥か向こうには、何か細長い壇のような物が見える。
 三人は早速、隠し通路へと進んでいった。


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