一般に視覚障害と聞くと、全く見えない人を思いうかべることが多いかもしれませんが、視障者のうちの3分の2は、ある程度視力を有する、いわゆる「弱視」といわれる人です。
また、視覚に何らかの障害があっても、身体障害者手帳を持たない人などを合わせると、その数は百万人いるともいわれています。つまり、弱視者は視覚障害者の大多数なのです。
視力が同じ0.1といっても、目の病気によっては、生活や行動に役立つ見え方が大きく違います。ここでは、弱視者の見え方の概略と、登山の場面でサポーター、弱視者それぞれが気をつけたい点について説明します。
- 一人の弱視者に対し、前後二人のサポーターが 基本です。
- 前サポーターのザックに、白いタオルなどコントラストのはっきりした目印をつけます。
- 前サポーター、弱視者、後サポーターが、片側の手に長さ3〜4mのロープを握り、1列に並びます。
- 前サポーターのザックにつけた白タオルなどの目印や、握っているロープで歩くコースを確かめながら、ストックなどの杖を突き、前サポーターのすぐ後ろを歩きます。
- 後サポーターは、後方から見て、張り出した枝や倒木に弱視者がぶつからないように、また、カーブなどの時に、前サポーターの目印を見失って、コースを外れたりしないように、主に声で指示をします。
弱視者の見え方には「百人百様」といわれるほど個人差があります。それぞれの見え方に合わせて、サポート方法を用意するということは、多くのサポート方法を覚えなければならないサポーター側の負担ばかりが大きくなってしまいます。
山は、サポーターと視障者のチームワークで登るものですから、視障者のニーズに対して、サポーターが一方的に合わせるということではなく、基本となる形を決めて、それに視障者とサポーターのお互いが努力して歩み寄るという姿勢が大切なのではないでしょうか。
もちろん、実際にサポートをする中で、チーム内で話し合い、基本型から取捨選択をして、より安全で簡単に山を楽しめるサポート方法が生まれていくのが望ましいことですが、初めは基本のサポート方法から一歩を踏み出してもらいたいと思います。
また、自分のサポートに必要なサポート用のロープや白いタオルなどは、視障者の責任として管理し、山行時には必ず自分で持ってくるようにしましょう。
弱視者のサポートの場合、つい「見えにくい」ということを忘れて声掛けをしないことがありますが、必ず弱視者から離れる時も声をかけてください。
とかく弱視者はその弱い視覚を使うことに熱中してしまいがちで、五感を生かした山の楽しみ方が少なくなることがありますので、思い切って目を閉じて野鳥や風のささやきを感じたり、巨木に抱きついてみたりすると、新たな感動が生まれるかもしれませんね。
望遠鏡で覗く時のように中心しか視野がなく、周辺が見えにくいという人もいて、山を歩いていても足元の段差や横から張り出た木の枝などに気づかないという場合があります。
またそれとは反対に、中心が見えにくく、周辺が見えやすいという人もいて、その場合、見えやすい部分でものを見るので、顔を斜めにしてものを見るようになります。
サポーターは、「正面を見ているのだから、見えているだろう」とか、「話しかけているのに、なんで自分の方を見てくれないのだろうか」などと感じることがあるかもしれません。
その他にも、視野の半分や一部分が特に見えない場合など人によってさまざまですが、視野に障害のある人は、見ようとするものを見つけるのが苦手です。対象物を教える時には、腕を持って方向を指し示すと、視点が定まりやすくなります。
暗いところではほとんど見えない人や、急に暗くなると慣れるのに時間がかかるという人がいます。
つまり、明るい道では普通に歩けるのに、急に葉っぱが生い茂った暗い林の中に入ったり、下山が遅くなって、周りが暗くなるとサポートが必要になる人がいるということです。
このような場合でも、夜の電灯やネオンサインなどは見えるという人がいるので、方向を指し示す時などには有効なこともあります。
また、明るすぎてまぶしく見えにくい場合は、弱視者本人がサングラスのような遮光眼鏡などを使い、目に入る光を調整することで、見えやすくなることもあります。
どちらにしても、明るくなったり暗くなったりというのに慣れるのに時間がかかる人が多く、林の中での木漏れ陽のさすようなところは、目が明るさに慣れたかと思うと次には暗い部分があったりで、非常に苦手だという人が多くいます。
一般に近視や遠視といわれているもので、近くは見えるけれど遠くは見えにくい、また、その逆の人がいます。
ある程度めがねや単眼鏡、ルーペなどで見えやすくなることもありますが、それでもなかなか見えやすくならない人もいます。登山前のミーティングで、どれくらい先の道の状況まで確認できるのかや、遠くが見えても、足下が確認しにくいなどということを視障者本人がサポーターに伝えるようにしましょう。
緑色や赤色が灰色に見えて見わけにくい人や、淡い色など、微妙に色の違いがわかりにくい人もいます。
たとえば葉っぱの間に赤い実がなっていても、葉と実とが同じ色に見え、見わけられないのです。サポーターが色を教えてあげることは、けっして失礼にあたることではありませんので、自然な会話の中で、花や鳥の色などを教えてあげてください。
上に説明した他にも、目の前の風景が、がたがたゆれるという人や、目の前に白い霧がかかったように見える、二重に見える、ゆがんで見えるなどいろいろな見え方の人がいますし、弱視者の中にはこれらの見え方が複雑に組み合わさっている人も多くいます。また、その日の体調や天候によっても見え方が変わってくる場合もあり、登山前に視障者に説明をされても、わかりにくいというのが正直なところかもしれません。
それでも視障者は、できるだけ具体的に、自分の見え方を説明するようにしましょう。一緒に山を歩いているうちに、きっとお互いに理解も進み、信頼も深くなっていくはずです。
お互い、あまり「見える」とか「見えない」などということばかりを気にせず、なにげなく関わり合えたらいいですね。
弱視者の中には、自分からは目のことを言いださない人や、あまり見えていなくても、見えるふりをして話を合わせてしまうというケースもあります。
しかし、山では一瞬の油断が事故につながることもあります。サポーターを信頼して、弱視者はできるだけ自分の見え方を理解してもらうように努力をしてもらいたいと思います。
また、晴眼者のように「見える」という経験がないため、自分がどのくらい見えにくいのかということをうまく説明できない弱視者も多くいます。サポーターを信頼していないから、見え方を伝えなかったということばかりではありませんので、サポーター側も誤解しないようにしましょう。
安全のために、また、一緒に楽しく過ごすためにもペアリングの際、ミーティングにしっかりと時間をかけ、ポレポレとお互い理解を深めていくようにしましょう。