5.国語の改革

 国字の問題は、教育実施上のあらゆる変化にとって基本的なものである。

 国語の形式のいかなる変化も、国民の中から湧き出てこなければならないものであるが、かような変更に対する刺激のほうは、いかなる方面から与えられても差しつかえない。単に教育計画のためのみならず、将来の日本の青年子弟の発展のためにも、国語改革の重大なる価値を認める人々に対して、激励を与えて差しつかえないのである。なにかある形式のローマ字が一般に使用されるよう勧告される次第である。適当なる期間内に、国語に関する総合的な計画を発表する段取りに至るように、日本人学者・教育指導者・政治家より成る国語委員会が、早急に設置されるよう提案する次第である。

 この委員会は、いかなる形式のローマ字を採用するかを決定するほか、次の役目を果たすことになろう。

(一)過渡期における国語改革計画の調整に対する責任をとること。

(二)新聞・雑誌・書籍及びその他の文書を通じて、学校及び一般社会ならびに国民生活にローマ字を採用するための計画を立てること。

(三)口語体の形式をより民主的にするための方策の研究。

 かかる委員会は、ゆくゆくは国語審議機関に発展する可能性があろう。文字による、簡潔にして能率的な伝達方法の必要は十分認められているところで、この重大なる処置を講ずる機会は、なかなかめぐって来ないであろう。

 言語は交通路であって、障壁であってはならない。この交通路は国際間の相互の理解を増進するため、また知識及び思想を伝達するために、その国境を越えた海外にも開かれなくてはならない」

 これからが報告書の眼目ともなる六・三制の勧告のくだりである。

「一、初等及び中等学校の教百行政 教育の民主化の目的のために、学校管理を現在の如く中央集権的なものよりむしろ地方分権的なものにすべきであるという原則は、人の認めるところである。

 学校における(教育)勅語の朗読、(天皇の)御真影の奉拝などの式をあげることは望ましくない。文部省は本使節団の提案によれは、各種の学校に対し技術的援助及び専門的な助言を与えるという重要な任務を負うことになるが、地方の学校に対するその直接の支配力は、大いに減少することであろう」

『米教育使節団報告書』を続ける。

「市町村及び都道府県の住民を広く教育行政に参加させ、学校に対する内務省地方官吏の管理行政を排除するために、市町村及び都道府県に一般投票により選出せる教育行政機関の創設を、われわれは提案する。

 かかる機関には学校の認可・教員の免許状の付与・教科書の選定に閑し、相当の権限が付与されるであろう。現在はかかる権限は全部中央の文部省に握られている。

 課税で維持し、男女共学制をとり、かつ授業料無徴収の学校における義務教育の引き上げをなし、修業年限を九か年に延長、換言すれは生徒が十六歳に達するまで教育を施す年限延長改革案を、われわれは提案する。

 さらに、生徒は最初の六か年は現在と同様小学校において、次の三か年は、現在小学校の卒業児童を入学資格とする各種の学校の合併改変によって創設さるべき『初級中等学校』において、修学することをわれわれは提案する。

 これらの学校においては、全生徒に対し職業及び教育指導を含む一般的教育が施されるべきであり、かつ個々の生徒の能力の相違を考慮し得るよう、十分弾力性を持たせなくてはならない。

 さらに三年制の『上級中等学校』(注、現在の高校)をも設置し、授業料は無徴収、ゆくゆくは男女共学制をとり、初級中等学校よりの進学希望者全部に種々の学習の機会が提供されるようにすベきである。

 初級と上級の中等学校が相伴って、課税により維持されている現在のこの程度の他の諸学校、すなわち小学校高等科・高等女学校・実業学校及び青年学絞等の果たしつつある種々の職能を、継続することになろう。

 上級中等学校の卒業は、さらに上級の学校への入学条件とされるであろう。本提案によれば、私立諸学校は、生徒が公私立を問わず相互に、容易に転校できるようにするため、必要欠くべからざる最低標準に従うことは当然期待されるところであるが、それ以外は、完全な自由を保有することになろう。

6.教授法と教師養成教育

 新しい教育の目的を達成するためには、詰め込み主義、画一主義及び忠孝のような上長への服従に重点を置く教育法は改められ、各自に思考の独立・個性の発展及び民主的公民としての権利と責任とを、助長するようにすべきである。例えば修身の教授は、口頭の教訓によるよりも、むしろ学校及び社会の実際の場合における経験から得られる教訓によって行われるべきである。

 教師の再教育計画は、過渡期における民主主義的教育方法の採用をうながすために、樹立せらるベきである。それがやがて教師の現職教育の一つに発展するよう掟案する。

 師範学校は、現在の中学校と同程度の上級中学校の全課程を修了したものだけに入学を許し、師範学校予科の現制度は廃止すべきである

 わが国に初めて“六・三制”実施への提案がなされた。また教育委員会の設置が強く要望された。いずれも日本の新教育への新鮮な鼓動であった。

「現在の高等師範学校とほとんど同等の水準において、再組織された師範学校は四年制となるべきである。この学校では一般教育が続けられ、未来の訓導や教諭に対して十分なる師範教育が授けられるであろう。

 教員免許状授与をなすその他の教師養成機関においては、公私を問わず新師範学校と同程度の教師養成訓練が、十分に行われなくてはならない。

 教育行政官及び監督官も、教師と同等の師範教育を受け、さらにその与えらるべき任務に適合するような準備教育を受けなくてはならぬ。

 大学及びその他の高等教育機関は、教師や教育関係官吏がさらに進んだ研究をなし得るような施設を拡充すべきである。

 それらの学校では、研究の助成と教育指導の実をあげるべきである。

7.成人教育

 日本国民の直面する現下の危機において、成人教育は重大な意義を有する。民主主義国家は個々の国民に大なる責任を持たせるからだ。

 学校は成人教育の単なる一機関に過ぎないものであるが、両親と教師が一体となった活動により、また成人のための夜学や講座公開により、さらに種々の社会活動に校舎を開放することなどによって、成人教育は助長されるのである。一つの重要な成人教育機関は、公立図書館である。大都市には中央公立図書館が多くのその分館と共に設置されるべきで、あらゆる都道府県においても適当な図書館施設の準備をなすべきである。

 この計由を進めるには、文部省内に公立図書館局長を任命するがよい。科学、芸術及び産業博物館も図書館と相まって教育目的に役立つであろう。これに加うるに、社会団体、専門団体、労働組合、政治団体を含むあらゆる種類の団体組織が、座談会及び討論会の方式を有効に利用するよう、援助すべきである。

 これらの目的の達成を助長するために、文部省の現在の『成人教育』事務に活を入れ、かつ民主化を図らなくてはならぬ。

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