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ガシャンガシャンと音を立てて歩く。背中には、常に共にあった絆を担ぎ、今日再び、歩みだすことを告げに……。 「な、何も槍を二本も背負って行かなくてもいいんじゃないか……」 「そうだけど……こっちはネメアとの最初の絆の、こっちはネメアとの誓いの証。まぁ、確かにさ。二つとも持って行く意味は無いだろうけど、この二つを持って俺は送り出したいんだ」 背中に担いだ槍から盛大な音を立てて歩くカイル。その様子をオイフェは苦笑いしながら眺めていた。 今日明日にも、ネメアはこの大陸を去るという。その知らせをもってオイフェはカイルを迎えに来たのだが、それを知って直ぐにカイルが用意したものがこの二本の槍。ネメアとの絆である"フェイタルバンド"と、誓いである"封魔の槍"だった。 確かに、二本とも持って行く事に意味は無いだろう。あえて言うならばけじめのようなもの。この大陸からネメアを送り出す為の、新たな誓いのようなものだ。 「なんなら……一つ持とうか? 流石に大変だろう」 「んー……確かに大変だし、いつもは一本ユーリスに持ってもらってるけど、でも今日は二つとも俺が持ってなきゃ駄目な気がするんだ」 そう言って、カイルはオイフェの申し出を断った。その頑なな覚悟の姿勢は、オイフェの目にどこか微笑ましく映った。 ふと、カイルが足を止め、そして道の先を見つめ始めた。何があったのだろうと、オイフェも足を止めて前方を見た。すると……こちらへ近づいてくる人影が見えた。その人影に対し、オイフェは知らずのうちに警戒態勢を取っていた。 暫くして、その人影が二人の前に立ち、足を止める。オイフェは低い構えのまま弓矢に両手をあてがえようとしたがそれをカイルに制された。そしてカイルはというと、いつもと変わらぬ様子のまま自分よりやや高めの視線に合わせるように上を向き、その人影と対峙した。 「や、久しぶり……というより一番最初の、始まりの日の前の日にオズワルドで会ったっきりかな?」 「ふむ、そういえばそうだな。アスティアの子、カイルよ。思えばあの時は、運命という流れに対する程に大きく、我らの中でも最強の存在たる闇を打倒するほどに強く、成長するとは思わなかった。よくぞ、ここまで辿り着いた」 カイルに対して素直な賞賛を浴びせると、わかりやすいくらい顔を緩ませてカイルは照れ笑いを浮かべた。 「なんか、初めてまともに褒められたかも。軽くちょっとうれしいんだけど」 「敵に褒められて喜ぶんじゃない……」 「だってー、ネメアやオイフェにはいつも厳しい事ばかり言われてたしー。別れてからは褒めてくれるような人居なかったしー?」 「言わずとも、お前は強くなった。それは自分で誰よりも感じているだろう? ……全く、この程度の事で喜ぶなどまだまだ子供だな」 オイフェがカイルの成長を口にすると、カイルは目を輝かせて喜びを笑みで表現した。後半の言葉はそれに対して微笑みながら口にしたものだ。だが、事実……カイルは子供だった。まだ冒険者として世に出た時など、肉体的に成長期にあったとは言え精神的には未熟な子供だったのだ。それを思えば、カイルは良くやったと口に出して褒めてやりたくもなるが……つけあがるのが目に見えているのでオイフェは、その言葉をまだ心の中に留めて置く事にした。 「っと、そういや母さんに会いに来たのかな? なら前の時と同じように、うちに居るから会ってくるといいよ」 「ふむ、分かった。とりあえず、了承が得られたと取っていいのだろうな。それでは、先に進ませてもらうとしよう」 そう言って、足を止めていた者は再び進み始めた。全てが終わりを告げた今。始まりの日の時と同じように、告げるものに会いに……。 それに応じるようにカイルも歩みを進め始めるが、ふと気になったことがあって後ろを振り返り村へと進む者の背に語りかけた。 「一応聞いとくけどさ! 俺たちこれから、ネメアを送り出しに行くんだけど、来なくていいのー! 息子の送別くらい、したって罰は当たらないんじゃない!?」 そのカイルの叫びに応じて、その者も振り返って答えた。 「既に、我等が親子に言葉にした別れは不要だ! 名残有るとすればただ一言だけこう伝えてくれ! 我等が道は既に分かたれた。後は己が信ずるままに進み行こうとな! 頼んだぞ!」 そう言ってカイルの答えを待たずに再びオズワルドへと進み始める。だが、カイルは見逃さなかった。その者、唯一この世界に復活を果たしていた最後の円卓騎士バルザーの背には、かつて破滅の槍を手にする前にネメアが担いでいた槍があった事を……。 「既に絆は我等が背に在り……か。親子揃って、素直じゃないな」 「あの者も、ネメア様も似た者同士……結局は親子だってことだろう」 「うん……んじゃ先へ進もうか。急がないと間に合わないかもしれないし……なんか嫌な予感がするし……」 カイルとオイフェは顔をあわせて苦笑すると、再び未開の森の先へと足早に歩を進めていった。 「え、えぇぇぇぇぇ! オイフェ様が迎えに来て、カイル様を連れて行ってしまったですって!?」 「そんな! カイルはまた旅に出てしまったのですか!」 村に有るカイルの家で、二つの悲鳴が上がる。 結局、オズワルドに戻ってこれたかつての住民は、アスティアとカイルのみだった。だがそこに、戦争も終わり行き場を無くした解放軍の者達を一時的な住処としてカイルが連れてきたのだ。田畑の荒廃以外に目立った荒れは無く、住居等はそのままに残っていたので解放軍の者達の手によってオズワルドは直ぐにも村らしい姿を戻した。今では新たな住居の建造や、田畑の農耕にも手を出しており、よくよく見ればそこかしこに手伝いとして活躍しているレーグの姿が見て取れる。体格も良く有り余る膂力を有したレーグは、解放軍の者達にとって頼りになる存在のようだ。 そして今、レーグはアスティアの家の影で家具の陰干しをしていた。ずっと放置されていた家具の手入れの為にと作業をしていたのだが、突如として上がった悲鳴の方へ目を向けるとユーリスとクリュセイスがアスティアの前で呆然と立ち尽くしているのが見えた。 「え、えっと……直ぐに戻ってくるといっていたし、旅に出たわけではないんじゃないかしら。だから大丈夫よ、ユーリスちゃん、クリュセイスちゃん……多分」 「甘い、甘いですよ、アスティアさん! カイル様は下手すれば一人でどこまでも行ってしまう方なのですっ。しかも、今回はオイフェさんと一緒なのです! もしかしたらずっとそのままオイフェさんの所から戻ってこないことすらも……」 「そんな……ようやく解放軍の方も村の立ち上げの方も軌道に乗ってきたというのに……またカイルは遠くへ行ってしまうのですか……」 脱力して嘆いている二人を前に、アスティアは対処に困っおろおろと慌てるしかできなかったが、そこへレーグが助け舟を出した。 「うぬらの知っているカイルは……そこまで薄情な奴でもあるまい。いくら好いた相手と共にあろうとて、困っているもの、関わったもの、仲間を見捨てるような奴ではないと……二人も良く知っているだろう」 呆れたような口調で、二人を諭すように声を掛けたレーグ。その言葉を聞くとユーリスもクリュセイスもはっとした表情で立ち直った。 「そうです、そうですね……どうせいずれは戻ってくるのですから、その時に置いてきぼりにした事をうんと後悔させてやればいいんですよね……」 「ふふふ、いつも勝手に居なくなっては、ふらふら戻ってきてまた居なくなって……いつも置いてかれる私の怒りを思い知らせてあげますわ、カイル……」 「「………」」 なんか変な方向にスイッチが入ってしまっただけだった。 暫く二人の豹変振りを呆然と眺めていたレーグとアスティアだったが、唐突に表情が厳しいものに変わる。家の隅の方を凝視しているアスティアとレーグの様子をおかしく思い、ユーリスとクリュセイスが首をかしげて居ると、急に二人の方に笑顔でアスティアが居直ってきた。 「とりあえず、二人とも今日はうちでカイルを待つといいわ。もしかしたら、今日中に戻ってくるかもしれないものね」 家の中へ入るように二人に促すアスティアだが、流石にこんなに早いうちから家の中でじっとして居られるほど二人は大人ではない。 「むぅ、それはそうですけど……それなら私はカイル様を追いますよ。今からなら追いつけるかもしれませんし?」 「私もまだ同志の皆の手伝いをしないといけませんから……」 と、ぐずっている二人を、レーグが脇から持ち上げて強制的に家の中へと連行して言った。 「いいから……今は落ち着く為にも家の中へ入っていろ」 ぎゃーぎゃーと喚いてまくし立てる二人に構わずレーグは家の中へ入ると、硬く戸を閉ざしてしまう。扉を閉じる間際、アスティアを案じるように目配せをしたが……アスティアは大丈夫だと同じように視線だけで返事を返した。 「……いつまで気配を消している気?」 「……幸せそうだな、アスティア」 家の隅の方から、大柄な人影が現れる。それはどこか羨ましそうな口調で、どこか儚げな笑みを浮かべながら円卓騎士バルザーはアスティアの前に立った。 「そうね……バルザー……」 アスティアも今にも消え入りそうなほどに弱く儚い笑みを浮かべ、バルザーの言葉に答える。思えば円卓騎士であった自分に、こんなにも穏やかな時が訪れるとは思いもしなかっただろう。 「我らの使命は終わった……おそらく、次は永遠の眠りとなるだろう。それでも、幸せといえるのか?」 次は悲しげな表情で、アスティアに問いかける。バルザーも不安に思っているのだろう。いつ何時、この幸せな一時が終わりを告げるかもしれないという事を。 「破壊神の……ウルグ様のソウルは既に人の手に渡り、今生きながらえているか、復活を果たしているか、既に目覚めの体制に入っている円卓騎士以外は……この世に舞い戻ることは無い。おそらく兄も、ヴァシュタールもこの世界に戻ってくることは無いのでしょうね……我々とて、次に眠りについた時は同じ事……それは重々承知しているわ」 俯きつつ、己の身に訪れた新たな運命を語るアスティア。だが、語り終え顔を上げると……アスティアは明るく穏やかで、美しい微笑みを湛えてバルザーの顔を見上げた。 「でも、それでも。暖かい日の光……愛すべき隣人達……豊かな大地の恵み……そして、世界で一番誇らしく、世界で一番愛しいあの子……。それより他に、何も無い永遠と引き換えになんて出来ないわ」 そして大空を仰ぐ。今の自分は、暗く血塗られた闇の上に立っているのではない。全てを包み込む陽光の下に立っているのだと確かめるように。 「宿命も運命も、全てを捨て……新しい時代がくる。私はその到来告げる為、この世界を生き延びたのかもしれないわ」 陽光に照らされ、輝きに満ちたアスティアの笑みを……バルザーはただ美しいと思った。 「そうだな……母は強いな、アスティアよ」 自分で言った台詞が気恥ずかしかったのか。照れるように苦笑すると、バルザーはアスティアに背を向ける。 「行くの?」 「ああ……エスリンに会う前に、するべき事があってな。さらばだ、告げる者よ。新たな時代に幸多からん事を祈っている」 後姿のまま、手を上げて別れの挨拶をするバルザー。全く持って素直じゃないと、アスティアはその後姿に笑顔を持って返した。 「大丈夫よ。あの子の居る世界、あの子達の築く世界だもの……幾千万の意思が幸せを祈る、新しい時代なんですもの」 その言葉にアスティアはカイルを思い浮かべる。そして恐らくバルザーは……。 闇の蔓延る時代は終わりを告げた。だが、これからも二人に清算するべきことは多いだろう。 だが、ここに新たな時代が告げられたのだ。 「遅いよぉ、オイフェ。早く行かないと、間に合わないよ?」 「何で貴様は……槍を二本も背負っていてそんなに速いんだ!」 今新たに、一つの世代が歩み始める。 「だからきっと、私たちにも……幸せを祈ってくれる人が現れるわよ、バルザー」 「少なくとも、私はお前の幸せを祈っているよ。強く生きろよ、アスティア」 今新たに、光に向かって歩み始める者達が居る。 「もー、しょうがないなぁ。速度落とすからさ。だからこの先は……」 「私も、貴方の幸せを祈っているわ。だから、この世界を……」 ――一緒に……行こうよ!―― ――共に……生きましょう!―― |
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