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神聖王国暦1320年 第二次ロストール戦役及び闇のモノ達によるエンシャント占拠事件。 別名、夜明け前の黄昏事件――第17次報告。 被害―― 第二次ロストール戦役:王族、国軍高官、兵の数、両国合わせ約6万4300名。 エンシャント占拠事件:エンシャント全住民の一時的消滅。 ……… 「今日は剣撃の訓練の日ではないのか。行かなくて良いのかね?」 一人のドワーフの男性が、部屋に入るなり声を掛ける。 「えぇ、もう少しサボってから、向かわせていただこうとおもいますわ」 長い黒髪を揺らしながら声の方へと振り返ると、先ほど読んでいた資料からその切れ長の瞳をその男性へと向けた。 今より70年以上前に起きた大戦争と英雄達の戦いの纏められた資料を目の前の机に置き不敵な笑みを浮かべると、腰掛けているソファーに深く寄りかかった。 「それに私は、もう2度とこのような争いを引き起こさないよう、武器を取る前に解決するのが役割ですもの」 声を掛けたドワーフの男性。デルガドは会い向かいのソファーに腰を下ろすと、目の前の少女に向かって再び声を掛ける。 「シャルヴィーよ。お前さん、そういう顔すると本当にお前のひぃばぁちゃんのザキヴに良く似ているよ」 火をつけたパイプから煙をぽっと噴出しつつ、デルカドは口元を引きつらせながら次期王位継承権第1位を持つ皇女、シャルヴィー・ディンガルに笑顔を見せた。 小柄な兵が長槍を手に持ち、中段に構える。鍛錬用の鉄仮面から垣間見える大きく丸い金色の瞳とピンと跳ねた短めの金髪から、その兵はどうやら女性のようだ。 対する兵は男のようで小柄というほどでもないが背は大きくなく、だがその筋骨隆々な体躯から実際の背丈よりも数倍大きく見える。同じく鍛錬用の鉄仮面を被り、両手剣を左手一本だけで担ぎ右手は後ろに回して腰に添えている。 この構図を見るだけで男の兵の方が数段実力が上だと解る。左手だけで両手剣を構えているだけでなく、右手を遊ばせている余裕も有るのだ。つまり、少女の兵に大きなハンデを与えているということ。 それでも少女の兵がまだ不利だという事が解る。何故ならその立会いをみる周囲の目が、子供が大人に挑んでいるような、そういうものを見ているかのように微笑ましい。つまりは、この立会いは対等の訓練ではなくそういうものなのだ。 その小柄な体躯を生かして懐へ潜り込もうと、少女が一気に駆けていく。その速度だけなら大したものだ。周囲のものでも何人が少女の動きについていけたのか。しかしそれほどの速度であっても、まだ遅い。 少女は自身が持つ槍の間合いに入った瞬間に、一歩強く踏み込み突きを放った。それを男の方は左手に持っていた両手剣の柄尻を押し当てて受ける。そのまま押し切れるのではないかと思った少女だが、一向に手を動かせない。逆に力を入れすぎて少女の手が震えているというのに、男の左手は微動だにしない。 この奇妙な競り合いは勝てないと踏んだ少女は、すぐさま穂先を下方へと外すと、そのまま槍を振り上げ、斬り上げを放つ。だが、男は動いた様子も無かったのに、その斬り上げは空を切る結果に終わる。 突きを剣の柄如きで止められた事と、あの間合いで斬り上げを回避されたどころか動いた事にすら気づかなかった少女は、苛立ちを覚えて声を張り上げながら突きを連続して放った。 しかし、その全てが剣の柄で受けられてしまう。中には柄で受け続けることを想定して、剣を握る左手を狙った突きも放ったというのに、いつの間には穂先は柄尻で受けられてしまっているのだ。 一閃。 断続的に突きを放っていた少女が、疲労の為か体勢を整えるためか、槍を引き戻して構えなおそうとした瞬間だった。その引き戻しに合わせて男は剣を振った。後から風斬り音と金属音が聞こえるほど速かったその剣撃は、少女の槍の穂先を斬り飛ばしただけでなく、余りの威力に少女の手から槍自体が弾かれるほどのものだった。 「そこまで! 勝負あり。ヴァイディアス様の勝ち!」 判定を下したのも、また女性。後ろ髪をポニーテールに纏めて、蒼い鎧を纏い大きな鎌を傍らに持った女性。ディンガル帝国の青竜軍の現在の青竜将軍。カチュア・ディンガルである。 判定が下ると、男の兵のほうは訓練用の鉄仮面を外す。 そこには髪は白く染まり顔には皺が濃く刻まれてはいるものの、現存する英雄の一人である竜殺し、ヴァイディアス・ディンガルの姿があった。 訓練とはいえ、老いたその体で先ほどまで猛攻を凌いでいたというのに、汗一つ呼吸一つ乱していないのは流石というしかない。 「御見事。御見事ですわ。御腕に少しの衰えも見えませんわね」 強く掌を打ち、拍手を送る者が一人。 「ロストール王国の……応接室にてお待ち願ったはずだが?」 ヴァイディアスはその拍手を打つ者へ声を返すと、1組の男女とそれ付き従う従者の集団があった。 「申し訳ありませんわ、ただ待つのは性に合わないたちですの。それに待てど暮らせど茶の一杯も出てきませんので、いささか飽きてしまいましたわ」 ヴァイディアスとやり取りするのは、赤み掛かった茶髪に肩口まで伸びた髪をした少女で、少し垂れ気味の目尻をしているが瞳に宿る力は強く、元皇帝を相手にしているというのに、些かの媚も気後れも無い。 目の前の少女との会話にやりづらさを感じて、ため息を一つ。ヴァイディアスはとことん、この血筋の者に会話で勝てる気がしない。 「勝手に歩き回られると困る。お戻りいただけるか」 「解りましたわ。では、皆さん戻りましょう」 そう言って身を返して行くロストールの面々。 その最中、一人の青年がカチュアと視線を交差させて不敵に笑って見せた。 「しかし、レラ宰相。ディンガルは平和ボケしているのか、城内の警備はザルですね。本当にここは、かつて円卓の騎士他、闇の者達により窮地に陥ったとされるディンガルの首都なのでしょうか」 レラと呼ばれたのは、先ほどヴァィディアスと会話をしていた女性。ロストールの宰相を務めるレラ・ミイスだ。そのレラに従者の一人が、嘲笑しながら意見したのだが。 「君は馬鹿かい? 平和ボケしているのは君の頭のほうだよ」 そう従者に答えを返したのは、先ほどカチュアと視線を合わせた男性だ。 「イ、イルティ総司令官、それはどういう意味で……」 「そのままの意味さ、見てごらん。君の言葉がどれほど軽率で馬鹿らしかったか、直ぐに解る」 イルティと呼ばれた男性は、従者の言葉通りロストール軍の総司令官を務めるイルティ・フリントである。琥珀色の髪と瞳をもち柔和な顔立ちの外見とは裏腹に、辛辣な言葉ではっきりと従者を打ちのめした。 ふとレラが手に魔力を集中させる。すると、城内だというのに凄まじい勢いの風が吹き荒び、レラの手の中の魔力を霧散させ……指先を軽く切り裂いていった。 「痛っ……」 「!?」 レラの指先から滴る血を見て、驚愕する従者達。しかし、それを見ても彼らには何が起きたのか理解できなかった。 「これは……」 従者が呟くように疑問の声をあげると、どこからとも無く声が響いてきた。 『ロストールの者達よ、この城内で敵意のある魔力など扱うものではないぞ? 本気ではないとは言え、下手をすれば八つ裂きになる』 その声は風に乗って聞こえているかのようで、風が吹き止むと同時に消えていった。 「風の巫女、エアの守護さ。ディンガル城内を我々ごと風の魔力が覆っている。今のはどうやら、こわいこわい女神様が忠告しに来たようだ」 イルティが今起きた事象を説明し終えると、従者のほうは顔を青褪めて黙り込む。自分の言葉がどれだけ迂闊な言葉だったのか、ようやく理解したようだ。 「しかし、ロストールだって捨てたものじゃないさ。今が過去なら僕とノーブル伯を引き換えに円卓の騎士の半分は殺れる」 そう目を細めて不敵に笑うイルティだったが。 「いやいやいや、何を私まで犠牲に含めようとしてるのですか。過去に我々も多くを失いすぎたのです。一先ずはこの平和を保つべきですわ」 イルティへそう反論するレラだったが……ふと、その垂れ気味の瞳を吊り上げて笑みを浮かべる。 「そう、待つべきなのです。ロストールはディンガル建国から100年待ちましたわ。また100年や200年、何の事もありません。『次の戦役』では、うまくやりますもの」 そう言ってイルティや従者に妖しげな笑みを向けると、再び彼らは歩みを始めた。 「今日はここまでだ。皆のもの、ご苦労。解散とする」 ヴァイディアスが号令をかける。すると、一部の者を残して、訓練場から皆去っていく。 先ほどからヴァイディアスが相手をしていた少女は、膝に手をついて荒げていた呼吸を整えようとしていたが、落ち着いたところで背筋を伸ばし鉄仮面をとってヴァイディアスのほうへと向き直った。 「アリアロもご苦労だった。良い剣筋だ、大分上達したな」 ヴァイディアスに労いの声を掛けられた少女。アリアロと呼ばれたハーフエルフの少女は、その活発そうな顔を情け無さそうに緩めてヴァイディアスの方を見た。 「は、はい。いえ、私なんかまだまだで……ありがとうございます。ヴァイディアス元帥閣下」 元帥と呼ばれたヴァイディアス。 ヴァイディアスは自らの息子が即位できる年齢まで来ると皇帝の席を譲り渡し、自身はディンガル軍を統括する為、初めて朱雀・青竜・白虎・玄武の4軍の上に立つ役職を作りそこに席を置いた。以来数十年間、その役職はヴァイディアスが担っている。無限のソウルとして、インフィニティアを宿したためか、人の寿命の限界まで生きる事を余儀なくされたヴァイディアスは未だ衰えを知らぬ体を鼓舞させる為、また自身が心酔していたディンガル軍の軍力の向上の為に、未だ腕を振るい続けている。 その為、度々このような公開訓練を行いっていたりする。 「あ、あのお父様、いえ……私の父は本当に昔はヴァイディアス閣下と対等に渡り合えるほどの実力だったのですか?」 「………」 アリアロからのその質問にヴァイディアスは呆気に取られたまま、近くに居たカチュアとそしてアリアロの保護者としてきていたオイフェと目配せをすると、ぽつぽつと語りだした。 「ぁー、アリアロ。お前のお父上のカイルはだな。迫り来る円卓の騎士を千切っては投げ、千切っては投げ。まさにディンガル無双といったありさまで、近づく兵は片っ端から真っ2ツにして、最終的に封魔の槍を持って、ワールズエンドを使用し竜王や闇の王女ごと吹き飛んだのです」 真顔。物凄く真顔でアリアロに語るヴァイディアスだが、流石に無理がありすぎる。 「……嘘ですよね、だってお父様はその後も生きてらっしゃいましたし」 「本当です。凄く本当です。本当と書いてマジに」 「えー……」 今度は胡散臭そうな表情をするアリアロだったが。 「本当なので、来月からのディンガル軍の物資と拠点や城壁の修繕の為の資材や援助をお願いします」 「またですかぁぁぁぁぁ!?」 即座に怒りの表情へと変えるアリアロ。彼女は自分の異母姉妹や弟達が元戦災復興団体であり現商会統合組合の組合長だったり、魔術アカデミーの筆頭教授であったりしたものだから、その筋に強力なパイプを持っている。どころか、現状アリアロは前者の理事であり後者の教授も兼任しているので、度々ディンガルというかヴァイディアスに無茶を言われまくっているのだ。 「お願いします」 ギンと目に力を入れて、半ば睨み付けるような形でアリアロにお願いをするヴァイディアス。もう脅迫の域であるが、相手の立場が立場なだけにアリアロは何も言えず。 「は、はい……うわぁぁぁぁぁぁん! 良いもん! またシャルヴィーちゃんになぐさめてもらうもぉぉぉん!」 「おねがいします」 結局、了承しては涙流して去って行くのだった。ちなみに、慰めてもらう相手が次期ディンガル皇帝なだけに若干オワタ臭がしなくも無いが、それ以上に娘が頼ってくれないことでオイフェが壮絶に濃い顔になって泣き崩れるのも毎度の事だったりする。 「おばあさまから良く聞かされていましたが、大変ですね、あの一族も。殆ど山賊や盗賊の手口じゃないですか……」 「良いのだ、苦労してもらわんと。今から散々苦労してもらわねーとな」 そう言ってヴァイディアスが声を掛けてきたカチュアへと振り向くと、一転して緊迫した空気に変わる。 「元帥を務めるにはそれ相応の実力、経歴、人脈が無いと結局4軍を纏められずに終わる。また長く治められるだけの資質も必要だ。俺だっていつか死ぬ時が来る。そうなった時、元帥は、4軍を纏める黄龍将軍はアリアロが担うんだ。ディンガルの王族や軍部、市政の組織とも親密に通じているあいつがな。以後はディンガルの王族のみが国家の主権に居座る事もなくなるだろう。多くの実力有る者が種族の垣根を超え、機関を統率し王族を支えていくようになるべきなのだよ」 そう語るヴァイディアスの顔は先ほどの嘘めいたような真顔ではなく、将来を見据える皇帝だったものの顔がそこにあった。そして語り終えると、ふっと一息ついて口元に笑みを浮かべる。 「俺の寿命もあと十数年そこらだろう。それに些か疲れたよ」 「えっ、そんな風には見えませんけどね」 ここ最近、自らの老いを語るようになったヴァイディアスだが、その相手は大抵はカチュアだったりする。それだけにこの後にどんな会話があってやり取りがあるのか解っているのでちょっと顔を引きつらせてしまう。 「今朝よぅ、鏡みたら皺が更に増えててよ」 「いや、そりゃもう御歳100歳超えてるんですから、むしろとてもじゃないけどそんな歳にゃ見えないッすよ」 「で、皺やお前やシャルヴィー、エアの顔をみてたらよぅ。死んでったあいつらの顔を思い出しちまって……」 哀愁にくれて、壁に手をつきたそがれるヴァイディアス。ふとバックに見目麗しい3人の女性の像が見えなくも無い。 「落ち込まない、そこ、落ち込まない。まだダメっすか、ひぃおばあさま達のことまだ克服できませんか」 普段は威厳たっぷりのヴァイディアスもカチュアとこの話をする時だけは、女々しく落ち込んでしまうのだ。そこがまた人間らしいともカチュアは思っているようだが。 「全く、第一死んだらとか言わないでくださいよ。それに忘れられないなら私がお相手しましょうか? ほらほら、私ってばひぃおばあさまのカルラ様にそっくりなんでしょう」 とかいって、膝に手をついて中腰になり胸元を強調するような格好でヴァイディアスを挑発していると、即座に拳骨が飛んできた。 「本気で殴る事ないじゃないっすかー!」 「ばっか、おめーばっか! 俺が本気で殴ったら、床突き抜けて城内崩落してるわぃ! それに冗談でもそんなこと言うな、ぼけー!」 そんなやり取りを傍から見ていてオイフェは、そうしていると本当にカルラとヴァイディアスが仲良く喧嘩をしているように見えて、微笑みながら見守っていた。 「大体おめーら、皆似すぎなんだよ! 全然、若い頃のザキヴやカルラやエアと変わんねーんじゃねーか! 思い出補正とか抜きにしても、似過ぎってどういうことだ!」 焦ったような、怒ったような表情で捲くし立てるヴァイディアスだったが、対するカチュアはにこっと満面の笑みを浮かべ。 「そりゃきっと、ひぃおばあさま達がヴァイディアス様を心配してくれてるってことですよ。わかるんですよ、私。ほら、そういう血筋ですもん」 人差し指をぴんと立てて、ヴァイディアスに微笑みかけるカチュア。そのせいで余計に懐古してしまう。 「あいつらと別れて、もう50年以上だ……50年だぞ。お前はこれからの人間だからいいかもしれんが」 「これでヴァイディアス様を誘惑できますしね」 などとカチュアが更に冗談めかしていると、再び拳骨が見舞われた。 「お前は悪い子だ! この口かこの口がいうのか!」 「ご、ごめんなさい! すいません、すいません!」 そんな平和な日常が廻っている。 100年。 人の身では長く果てしない年月。 既にあの頃、対等の立場に居た英雄達はもう居ない。 いや、ただ一人を除いてだが、その一人とてもはや……。 深夜。 闇は濃く、夜空は暗雲によって潜められてしまい閉ざされた宵闇の中。 月の目を盗み、星の瞬きを潜り抜け、風の隙間を這ってソレはやってきた。 場所はヴァイディアスの寝室。 そこは軍部に近い場所にあるだけに、侵入経路を考えれば皇室と同等以上に警護は固い。 しかし、ヴァイディアスが眠っている寝床の前に立ち剣を構えるその闇はそれら全てに知られる事無く、今ソコに立っている。 その闇は剣を振り上げ、殺気も闘気も無く……ヴァイディアスの首筋目掛けて振り下ろした。 剣戟が響く。 直感か、気配を察知したのか。ヴァイディアスが常に寝床に潜り込ませてある剣。緋炎の宝剣を片手に、その闇が振り下ろした剣を、ソルンベルジュを受け止めた。 そして立て続けに剣を振るい数合ほどの打ち合いの後、ヴァイディアスが蹴り付けると闇は壁に叩きつけられ、力なくだらりと壁に持たれかかる事になった。 「ヴァイディアス! 何事なの!?」 ドアを蹴破って入ってきたのは、ディンガル軍親衛隊隊長のフェティだった。恐らく、風の守護によって事態を察知したエアの知らせで寝所の手前まで転移してきたのだろう。 急いでドアの近くに有る明かりを灯すと、ヴァイディアスの傍らまでフェティは寄っていった。 「ク……クハッ……ハハ」 その闇は哂っていた。久しぶりに会った友の、見知った顔の。変わらぬ気性、変わらぬ気配、変わらぬ魂の鼓動に。 「手荒い歓迎じゃね。それに相変わらずやかましくて清々する」 「ヒュ、ヒューゴ!? 剣聖ヒューゴ!?」 灯りに照らされて露となった闇の正体。それは嘗てと、100年前と何一つ変わることのない外見で現れた剣聖ヒューゴだった。 「遅せぇよ、ヒューゴ。何してたんだ」 ベッドに腰を落ち着けて、ヴァイディアスが話しかける。 「闘っていた、闇と。俺の中で、俺の命と」 壁に持たれながら、ヒューゴが答える。 「100年間、3万6500日、87万6000時間。ただの一体の闇と、殺して殺され闘い尽くして来た」 ヒューゴが立ち上がる。 「もう、俺はここに居る。もう人間だった俺はどこにも居ないが、闇を制した俺はどこにでも居られる。 だから、『ここにいる』」 ヴァイディアスが立ち上がる。 「遅せぇ、遅せぇよ。遅すぎんだよ、ヒューゴ」 「……すまねぇ」 寝所に風が吹く。 エアの加護によってもたらされたその風がヴァイディアスの体を優しく撫でるように吹いた後、その身は鎧に包まれその手には破邪の剣が握られていた。 寝所に闇が満ちる。 魔神の持つ闇がヒューゴの裡より湧き上がり、その身を包みこんでいくと鎧や槍、剣などの武具へと形をなし、ヒューゴは再びソルンベルジュを握り直す。 そして二人は構える。 「殺す気だったか、俺を?」 「ああ、そうだ。100年間。まともに体を動かしてねぇ、ちょいと肩慣らしにな」 ヴァイディアスが緋炎の宝剣を。 ヒューゴがソルンベルジュを。 「俺はもうジジィだぞ。俺は……」 「構わんさ……」 勇者が魔人に切っ先を向ける。 魔人が勇者に切っ先を向ける。 互いの剣刃が交差する。 「おかえり、剣聖」 「ただいま、竜殺し」 伝説は終わらない。 無限は終わらない。 〜〜INFINITY'ING〜〜 無限は無限に続いていく。 |
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