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古き遺跡の町、オズワルド。 この穏やかな町の奥で、底知れぬ闇が目覚めようとしていた。 そう、俺の冒険の始まりは、闇との出会いから始まった。 (母さん? こんな時間にどこへ行ったんだ?) 隣の部屋から、母であるアスティアの気配を感じられず、母の部屋の前へと行くと扉が開いていた。 (やっぱり……、母さんは居ないな………) 不思議に思い、階段を降りて一階の玄関から外へと出て行く。 何を思ったのか、町の広場から遺跡のほうへと続く道へと出てみると、遺跡へと歩を向けるアスティアの姿が眼に入った。 (遺跡のほうへ向かってる……。追いかけてみるか) アスティアに気づかれぬよう、忍び足で遺跡へと向かう背中を追いかけていく。 やはり、アスティアは遺跡の長い階段の上にある光を放つ穴を目指しているようだ。 そっと気づないように、アスティアの後ろから階段を上っていく。 「まだ、大丈夫ね……。光は日に日に強くなっていっているけれど、復活する様子はない……」 光を放つ穴の前で、独り言を呟いているアスティアの言葉が気になり、遂々身を乗り出して穴のほうを見ようとしてしまったのが失敗だろう。 アスティアに見つかってしまい、説教をされる。 「カイル、ここに来ては駄目。そう言わなかったかしら……!」 アスティアの言葉が途切れると、急に地震が襲いかかってくる。 それほど大きな揺れではないが、バイアシオン大陸全土に響いたのではないか……、地震と共にまるで巨大な生物が吼える様な声さえも聞こえた。 「まさか、竜王の覚醒! また……、繰り返されると言うの!」 先ほどの地震から何かを悟ったのか、アスティアは明らかに焦りを隠せない声色で叫ぶ。 「カイル………。お前と暮らすようになってから、もう14年が経つのね。ずっと、こうしていたかったけれど、運命はそれを許してくれないようね」 哀しそうな声で、カイルに語りかける母、アスティア。 その声色は、これからのカイルの未来を予見しているような響きを持っていた。 「おいで、カイル」 その言葉に頷いて、階段から上りきり、光を放つ穴の前まで来る。 「この遺跡の真の名前は、ヴァシュタールの柩。神代から繰り返される戦いの証」 そう呟くと、アスティアは、カイルの方を振り向き、空を見上げながら、再度語り始める。 「竜王の覚醒は、戦乱を告げる神の声……」 その言葉を聞き、先ほどの吼えるような声は、竜王が覚醒したものなのだと解り、カイルも空を見上げる。 「また、戦いの時代が始まるのね……。もう、たくさんよ……」 そう言うと、目線を空から地面へと落とし、落胆の響きと共に肩を下げる。 何故、母がそんなことを知っているのか。 そんな疑問を感じつつも、これからこの世界に何が起こるのだろうかと、ほんの少しの好奇心により満たされていた。 早朝に、アスティアにあんな話を聞かされて、居ても立っても居られずに、ヴァシュタールの柩と教えられた光を放つ穴の前に来ていた。 「ヴァシュタール……、これほどの遺跡に封じられるほどの奴って、一体どんな化け物なんだろうな」 誰も居ない遺跡の頂上で一人ごちる。 確かに、アスティアの言うとおり日に日に光は強まっていく。 しかし、今すぐ何か起こるわけではないだろうと思い、遺跡の階段を下り、家への帰路へと着く。 「よう、カイル。ふふふ、今年の野菜のできはいいぞ。やはり、肥料を変えたのは正解だった」 町の広場まで行くと突然、村の農夫に声をかけられた。 今年取れた野菜の出来が相当良かったようで、自信満々に語っている。 「へぇ、一体どんな肥料をつかってんの? もし良かったら、今度うちにも、その出来のいい野菜を分けてよ」 「どんな肥料を使ったかって? そいつは教えてやれないなぁ。まぁ、今度おすそ分けしてやるよ」 ちぇっと伐の悪そうな顔をして、その農夫に別れを告げて家へと戻る。 まるで、早朝に起きたことが嘘の様ないつもの日常。 今日も、いつもどおりの日々が始まるのだと、カイルはそう思っていた………。 家の扉を開けると、そこには母、アスティアと、見たこともない男性が立っていた。 「まって、カイル……」 突然、アスティアの手がカイルの行く手を阻む。 まるで、目の前の男性にカイルを近づけさせないようにしているかのように。 「バルザー……。貴方が、どうしてここに?」 アスティアが、警戒心を込めて目の前の男性に語りかける。 (バルザー……? 母さんと知り合いなのかな) そんな風に男性の方を見ていると。 「少年よ、使いを頼みたい。」 不意に、その男性から語りかけられた。 「案内を頼んだ老婆に、礼をしそびれた。この皮袋にいくばくか、謝礼が入っている。これを渡してきてほしい」 この頼みを聞いていいのか、少し戸惑い、アスティアに目配せをすると……。 アスティアは神妙そうに頷いて、使いに行くように合図を送ってきた。 母に了承をもらい、男性に頷き返し皮袋を受け取り、家の外へと出て行った。 しかし、ここでおかしなことに気づく。 (確か、町の門の近くに住んでいた婆さんは、半年前に亡くなった。この町に、今老婆なんていないはずだぞ?) 事の矛盾に気づき、扉の前でカイルは二人の動向を探ろうとしていた。 「時は満ちた。しかし、何故告げぬ? 告げるものよ……?」 「さぁ、どうしてかしらね……」 バルザーは、アスティアに対して告げるものといった。 それが意味するところは何なのだろうか。 「あの少年か……」 「……………」 バルザーの言葉に、肩を落とし沈黙するしかないアスティア。 その沈黙によって、バルザーの言葉が正しかったものだと解る。 「解っておろう、アスティアよ。ヴァシュタールを目覚めさせぬのは、我らが主への裏切りだぞ」 強くつむがれた言葉は、その行為がどれほど愚かな事かを示唆しているようでもあった。 「フフ……。裏切り者の私を殺しにきたんじゃないの? 円卓の騎士、バルザー?」 「……………」 アスティアの言葉が真実であったのだろう。それでも、今こうして裏切り者のアスティアを前にして、バルザーは殺気をまとっていない。 「やさしいのね。でも、やさしさはすなわち弱さ……。貴方も年をとったわね」 「私だけではない。お前もだ、アスティア。私があの少年に近づいたとき、お前は動く素振りも見せなかった。私があの子を殺し、お前を元の冷酷な円卓騎士に戻そうとするとは考えなかったか?」 言葉の内容は、とても残酷なものだったが、円卓の騎士であるバルザーからは、それにともなう残忍さが殆ど感じられなかった。 「えぇ、考えなかったわ。愛を知った貴方が、失うということの痛みを前に、踏みとどまらないわけないもの」 信じて疑わなかったとばかりに、目の前の元仲間である円卓の騎士を前にして堂々と言い放つ。 「……運命は変えられぬ。お前のしていることは、無駄なことだぞ、アスティア」 やや諦めを含むような声色で、運命に抗うことは不可能だというバルザー。 「私は警告に来ただけだ。己の力を過信するな。個の力など運命の前には無力だ」 そう言うと、アスティアの隣を通り抜け、扉の前に立つバルザー。 「さぁ、それはどうかしら? ヴァシュタールを目覚めさせることが出来るのは私だけ。そして、闇の門を開けられるのはヴァシュタールだけ。闇の門を 通らなければ、ウルグ様は復活できない。……違うかしら? それでも無駄だと?」 自分の知る事実を突きつけ、自信を持って言い放つアスティア。 しかし、それは変えようのない運命にしてみれば、滑稽な悪あがきでしかなかったのだろう。 次のバルザーの言葉が、それを裏付けていた。 「・・・ヴァシュタールの棺に近づく者がある。奴の気は千変万化して正体をつかませぬ。気をつけることだ」 家の中の様子を、扉の前で探っていたカイルは、バルザーが扉を出てこようとするのを嗅ぎ付け、急いで家の前から離れる。 (円卓の騎士? 母さんが告げるものだって? ウルグって、あの邪神ウルグだろ? 一体どうなっているんだ……) 広場の隅まで駆け足で逃げてきたカイルは、肩で息をしながら今目の前で起きた事を反芻していた。 自分にとって、優しく暖かかった母。 とても穏やかだった日常。 それが、ただ一つの出来事により、変わってしまった。 遂先ほどまで、今までどおりの日常が訪れるのだと、信じて疑わなかったカイルは、突拍子もなく進んでいく出来事に眩暈すら感じていた。 (そういえば、遺跡に近づくものが居るって言ってたな………) 何故ここで遺跡へと足を向けたのか、カイル自身定かではない。 もし、ここで遺跡へと向かわなかったらいつも通りの日常が訪れていたのではないか。 後に、そう疑いたくなるほど、このとき運命は動きだしていた。 「また……、目覚めてしまったのか……?」 「おはよ、破壊神ウルグの円卓の騎士。ヴァシュタール」 ヴァシュタールと呼ばれた男は、自分を目覚めさせた張本人へと眼を向ける。 「なぜ……、私を呼び覚ました」 「破壊神降臨の通路、闇の門を開けるのが君の役目でしょ。他に芸があるの?」 まるで、人形のような奇妙な笑いと共に、破壊神の円卓の騎士に話しかける。 「……虚無の子か。何を考えている。神が去ったこの世界で、ウルグ様が復活することが、どういうことか解っているのか?」 そこに、何の畏れも無く、虚無の子と呼ばれたものは答えた。 「おもしろいことさ」 その言葉を聞き、運命が動き出したことを実感するヴァシュタール。 「フッ、よかろう。時は満ちている。闇の門を開けるのは、開け放つものである私の役目だ。だが……まだ、力が足りぬ」 「なーに言ってんの! この町を作ったのは、なんのため? たくさん、人間を飼っておいて。目覚めたときに、ソウルを刈り取って力を吸収するためでしょ? さぁ、さくさくソウルを吸い取っちゃってよ。ヴァシュタール」 虚無の子は、まったくの悪気も、残酷さも、残忍さも無く、ただそれが当たり前だと言わんばかりにヴァシュタールへと言い放った。 階段を駆け上がり、光を放つ穴へと向かう。 その様子は、まるで不安の元を解消したい子供が足掻いているような様子にも似ていた。 しかし、階段の下からでも、上で何かが起きていることが容易にわかる。 小さな小さな期待は、それが絶望への道だと理解していながら、階段を駆け足で上っていった。 「おやおや、もうジャマがはいるなんて。先が思いやられるよ」 そして、カイルは穏やかな日常の終わりへと辿り着いた。 既に封印は解かれ、光を放つ穴の上に、一人の男性が浮かんでいた。 そして、穴の傍らには、カイルとそう変わらないか、少し上位の子供が立っていた。 「お前は! 虚無の子? なんてこと………!」 カイルの後を追って、遺跡の上へと上がってきたアスティア。 その声に含まれる絶望的な響きが、カイルの考えが外れなかったことを決定付けているだろう。 「破壊神ウルグの円卓の騎士。告げる者アスティアよ。お前の背信のもくろみは失敗だ」 「そんな……」 眼を伏せ、落胆の色を隠せないアスティア。 「どうあがこうと、運命には逆らえない」 「そうだよ、アスティア。与えられた仕事があるんだから、きちんとやらないとね。 おや?誰か来るみたいだね。ばれたら大変だ。じゃあね、アスティア」 そう言うと、虚無の子と呼ばれたものは、テレポートをしてこの場から去っていった。 「カイル、逃げなさい! この町を出るの! 私もすぐ後を追うわ!」 切羽詰った表情で、カイルに逃げろと叫ぶ。 しかし、カイルは首を横に振る。 カイルは冒険者に憧れ、常に近くの森の中で幼いころから体を鍛えてきた。 力こそあまり強くないが、素早さに懸けては誰よりも……それこそ、そこらの冒険者なんかよりも長けていると自信を持っている。 足手まといには成らない、少しでも力になれるはずだと、一向として下がろうとしない。 「すぐに後を追う、だと? フッ、笑止な。実力を知れ……、背信者アスティアよ」 しかし、カイルの考えは甘いことを思い知らされる。 目の前の男から、強力な魔力が吹き荒れる。 カイルは対峙するだけで圧倒的な実力の差を見せ付けられ、恐怖心に表情が歪む。 「お願い! 逃げて!」 沈痛な叫び声をあげるアスティア。 しかし、既に恐怖心に支配されたカイルは、その場から動くことすら出来ない。 「フッ、無駄だ。無限のソウルの持ち主でも、私に勝つことは出来ん。その大いなるソウルを我にささげるがよい」 巨大な魔力がヴァシュタールの手に集中する。 そして、それがカイル目掛けて振り下ろされる瞬間。 アスティアの手により、テレポートをかけられ、どこかへ飛ばされる。 正に、間一髪というところで、カイルは一命を取り留めることが出来た。 「今まで黙っていてごめんなさい。カイル………、わたしは、破壊神に使える魔人。円卓騎士、告げる者アスティア。何千年という時を、私は、戦いながら生きてきた……。だけど、お前と過ごした14年……、私ははじめて安らぎを知った……。カイル、強く……、生きて……」 「自分の身を捨ててまで逃がすか……、アスティアよ。母とは強いものだな」 「どうした、少年? こんなところで倒れていては、危険だぞ」 「ん……?」 とある街道でカイルは声をかけられた。 目の前には、自分と同じ金色をした長髪と全身を覆うプレートメイルを装備した男に声をかけられた。 「貴方は……!」 突如、カイルは自分を抱え起こしてくれた男性を突き飛ばして、間合いを取る。 そして、いつも身に着けている組み立て式の練習用の槍を構えた。 「助けた相手を突き飛ばし、武器を向けるのは感心せぬがな」 「………」 こっちが構えを取り続けていると、目の前の男も構えを取る。 奇しくも、お互い得物は槍。 勿論、カイルの持つ組み立て式の槍とは、訳が違うが。 それでも、カイルのとった奇妙な行動と、長身ながらも、幼さの残る顔立ちからは想像し得ない闘気を前にして、男も力強く槍を構えていた。 「シャアッ!」 先に仕掛けたのはカイルのほうからだ。 素早さに自信があるというだけはある。 一瞬で目の前から消えたかと思うほどのステップで、相手の左方に回りこもうとする。 しかし、相手も並みの冒険者というわけではないようだ。 予め読んでいたというように、左から襲い来る突きを受け止め、槍ごとカイルの体を弾き飛ばす。 そして、弾き飛ばしたところへ、槍を振りかぶり、カイルに向かって振り下ろす。 しかし、カイルも見事とはいえないまでも、受身をとり、槍の振り下ろしを避け、瞬時にその場から移動し間合いを取る。 そして、遠目の間合いから、一気に相手の目の前まで飛び込む。 長期戦は、経験の差からも、装備からも不利と悟ったカイルは一気に勝負を賭けた。 流石に、この数mの間合いを0にするほどの踏み込みに意表をつかれたのか、カイルが目の前に来ることを容易く許してしまった。 そして、互いの攻撃が交差する。 カイルは素早く大きな踏み込みからの突撃。 それは、相手の額を僅かに掠めただけで、避けられてしまった。 相手は、多少意表をつかれたものの、冷静に対処し、カイルの突撃に合わせるかのように腹部に槍の柄で打撃を見舞っていた。 「ッッッ……!」 腹部に大きな衝撃を喰らい、又も意識を落としていくカイル。 どうやら、カイルの相手にした男性は、相当どころか、達人を凌駕した域に居る者だった様だ。 真正面からの、凄まじい速度の突撃を、寸の見切りで避け、カイルに極力怪我をさせぬように、柄を握った拳で腹部を殴打したのだ。 これほどのことを、意表をつかれながらもやってのけられる者が、今のこのバイオシア大陸にどれだけ居るだろうか……。 正に相手が悪かったといえるだろう。 「ぅ………、げほっごほっ」 しばらくして眼が覚める。 腹部に喰らった一撃がよほど強力なものだったのだろう。 骨は折れてないが、大きな痣に成っており、今だズキズキと痛む。 「眼が覚めたか、少年?」 よく見ると、カイルは先ほど刃を交えた男性に、木の下の陰で介抱されていた。 「ツッッッ……!」 「まぁまて、少年よ? まず、どうして私を襲ったのか、何故そこまで眼の仇にしているのか教えてほしいものだ」 冷静に淡々とした口調でカイルを諭す。 今思い返してみれば、カイルがいきなりこの男性を襲った風にしか見えないだろう。 反省して、語ろうとすると。 「おっと、その前に名前を名乗るべきであったな。まずは私から名乗ろう。私の名は、ネメア=ランガスター=ディンガルだ」 「ぶほぉっ!」 目の前の男性の名前を聞くと、腹部の痛み以上に咽てしまった。 「ま……まさか。あの、勇者ネメアですか!」 森の置くの町で育ったとはいえ、先ほど刃を交えた男性が、今ある英雄譚の代表ともいえる勇者ネメアだと知り、驚きを隠せない。 (俺……、よく生きてられたな……) 事実をしって、無謀な事をしたのだとわかり、冷や汗を流した。 「なんだ? わかって襲い掛かってきたわけではなかったのか」 「はい……、えっとぉ、俺の……、いや僕の名前はカイル=グリーマーです」 幾分、恐縮したような口調で答えるカイル。 「そんなに畏まらなくていい。人は、普段どおりの自分で居てこそ、真実として向き合えるというものだ」 さらりと言ったセリフだが、さすが勇者だけに言う事が違うなぁと感心している。 「それで、何故私に襲い掛かってきたのだ?」 「ぇーと、俺がネメアを………、ネメアさんに襲い掛かったのには訳がありまして、ある人に似てたんです」 「別に、呼び捨てで構わんぞ? あるがままに生きてこそ、真の強さと自由を手に入れられるというものだ。それで、誰に似ていたというのだ?」 この先を言っていいものか、カイルは正直迷った。 しかし、実際に起きた事、感じた事を、誰かに共有してほしい。それが、あの勇者ネメアならなおの事心強いだろうとも思った。 「じゃあ、失礼ですけど呼び捨てにさせてもらいます。ネメアに似ていると思ったのは、貴方なら知っているでしょうけど……、円卓騎士バルザーにです」 「なに!」 それほど大きな声ではないが、驚愕の響きを伴った声を出すネメア。 「なんていうか、においっていうか雰囲気っていうか、気配みたいなものが似てたんです。それで、先ほど起きた事も合って、遂々反応してしまって、攻撃を……」 「なるほど、興味深い話だ。カイルは、円卓騎士を知っているのか? 先ほど起きた事とは、何があったのだ」 「円卓騎士を知っているというか……、実は俺の育ての親が円卓騎士、告げるものアスティアだったんだ……」 「なんと……、告げるものアスティアが……」 そして、カイルは先ほど合った出来事を、円卓騎士によって動いたカイル自身の運命について話した。 「そうか……、バルザーが動き出し、ヴァシュタールが目覚めたか……。アスティアがそこまで変わっていた事には、驚きを隠せないところだがな」 「はい……」 先ほど起きた事をネメアに話し、それが夢ではなく事実なのだと改めて実感し、認めるカイル。 その表情は絶望的なまでに落ち込んでいる。 「ふむ、カイルよ。アスティアが円卓騎士だからといって、お前はアスティアを恐れたり、軽蔑したりするか?」 「……いえ。母さんは……、俺にとっては、優しくて、強くて、暖かい最高の母だった」 「そうか、そう言えるならばそれほど落ち込む事でもあるまい。アスティアとて円卓騎士だ。そう簡単には死なんだろう。この世界で動き出した闇を追っていれば、いずれ出会えるかもしれん」 「闇を………、追う」 その言葉を聞いたとき、何故か圧倒的な闇を前にして感じた恐怖心は姿を現さず、竜王の覚醒の声を聞いたときの様な好奇心が湧き上がって来た。 「ふむ。素質は十分どころか申し分ないな」 カイルを見ながら独り言を言うネメアを、首をかしげながら訝しげに見る。 「どうかした、ネメア?」 「いや、……カイルよ。実は私は、己の運命に抗うために、闇を追っている最中なのだ。どうだ、お前も共に来るか?」 その言葉に、カイルは眼を丸くする。あの勇者ネメアから、誘いを受けたのだ。 いつも、冒険者を夢見て、強くなりたいと思っていたカイルは、今この瞬間が夢ではないかと思う程に、今の言葉が信じられなかった。 「どうした? 別に、嫌ならば無理強いはしないぞ」 「嫌だなんてとんでもない! 本当にいいの?」 「あぁ、私たちと君は、数奇なる運命を辿ってしまった者たちだ。共に闇を追おう」 「うん! 俺、ネメアと一緒に行くよ! そして、いつか闇にも負けない位、強くなって見せるよ!」 あまりの出来事に興奮して話すカイル。 初々しいそのカイルの意気込みを、ネメアは微笑ましく思った。 「フッ、口調もすっかり普段どおり……、といった感じだな。だが、それでいい」 カイルに聞こえない様な声で、呟くと、立ち上がり、木の陰の外に出る。 「そんで、いつかさっきネメアに負けた借りも返してみせるよ」 拳をぐっと握って、満面の笑みで叫ぶ。 幼心とは怖いものだ。無意識に、勇者ネメアに宣戦布告をしているのだから。 その言葉に、ネメアは苦笑しつつ、 「よかろう。お前がいつか、運命にも負けぬほど強くなったとき、また先ほどの再戦をしようではないか。それまでは、私がお前を鍛えてやろう」 「俺、頑張るよ!」 「あぁ、期待しているぞ。まずは、お前の冒険者登録からだな」 そして、街道をリベルダム方面へと歩みを進めていく。 その二人は闇の者に深くかかわった者達。 この後に袂を分かつが、知られざるネメアの弟子として、カイルの冒険は始まった。 |
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