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街道沿いの道を一人の男が歩いてくる。 旅人然とした格好の普通の男。だが見るものが見ればすこし歩き方に癖がある。 「旦那。来ましたぜ」 視界から消えるポイントで道を行きながら男が告げる。 「なるほど。確かにネメア本人だ。あのナリじゃ間違いようがねえな」 獅子の鬣のような美しい金の毛並み。凝った意匠でいてそれでいて無駄のないプレートアーマー。そして天を突かんが如く聳え立つ大槍。 この大陸において知らぬ者無き勇者。ネメア・ランガスター・ディンガル。 「今は冒険者に戻ったとはいえその名声が失われるはずも無く、むしろ追われた今民衆は彼に同情的だ。きっとやつが帝位についた方が国の為になるだろうしな」 横にいた男に金の入った袋を投げつけてやる。 「ご苦労だったな。あとはもう何処かへいってろ」 金を払うやいなや邪険に追い払う。 「ネメア・ランガスター・ディンガルだな」 街道を行く男が歩みを止め視線だけを向けて肯定してくる。 「何者だ? といってもつけていた二人から察するに答えは聞けないようだが」 「ご期待に添えなくてすまない。俺の名はベルゼルガ。ただの冒険者だ」 「ただの冒険者が何故?」 怪訝な表情で片眉だけ上げてネメアが促す。 「簡単な事だ。こういうこった!」 担いでいた槍を構え、猛然と突撃。渾身の力で突き出す。 「なるほど……な」 半身を捻りながら槍の柄で突きの軌道を逸らしながら 「君が私に挑む理由が分らないが、この槍で返答するのが礼儀だろうな」 押し合う得物をネメア跳ね除け、地面を擦るように下方から伸び上がってくる槍。辛うじて受けるも間合いが開く。 「ネメア。今の世で最も力ある者。その力は疑いようの無い伝説じみた逸話で証明されている。俺は力が欲しい。全ての物に束縛されない力が」 「力! 力だと? 全ての物に束縛されない力?私を見てそのような幻想を抱いたというのか?」 ネメアがあからさまな怒気を込めて猛然と反論する。 「全ての物から自由になる為に全ての物を支配するとでもいうのか?」 ネメアが突き出すように槍を構える。 「思い上がるな。力を得るということは責任を伴う事だという事を教えてやる!」 「気がついたか」 気がつくと宿屋の一室にいた。どうやらあの後ネメアに介抱されたらしい 「ここまでする気はなかったのだが……」 段々と思い出してきた。あの後突進してきたネメアの連撃を二発受けたあたりから記憶が無い。 「いや…………殺されなかっただけマシだろう」 結局歯牙にもかけられなかったということか。命のやり取りをする力量ではなかったと。 「何故力を求める?」 唐突にネメアが聞いてくる 「力が大きければ大きいほどなせる事も多くなるだろう、しかしまた課せられるものも大きくなっていく、力ある者の宿命とでも言えるだろうがお前は全てのものから束縛されない力といった。それは世界を牛耳る力を得る事に他ならない」 「俺は力を得られれば全ての選択肢を選べると思った。本来見えない新たな選択肢ですら作り出せるのだと思っていた。何かを為したいのではなく為したい時に為せるように俺は力を求めた」 苦笑まじりにネメアが答える。 「お前はおかしなやつだ。だが一言言っておく。安易に力を求めるな。大事なのは何をなす為の力かだということだ…………。力を求める過程でそれを見極めるのだな」 ネメアが席を立ち背を向ける 「だがネメア。俺にはそれが無いんだ。だからただひたすらに力を求めた」 背を向けたままネメアが答える。 「私の話をしていなかったな。私の敵は運命だ。破壊神ウルグの復活を阻止する為に各地を旅している。世界が闇で閉ざされる事を防ぐ為に力を求めている。お前が私に大きな力を見たというならそれは私の背負っているものの大きさが垣間見えただけだろう」 「はは。世界……世界か……それは大きい大きすぎるなネメア。だがそれを背負う事が俺の望む力を得る導にはなるかもしれない」 「力の大小に関わらずその一翼を担うことは出来る。しかし力を有するものであればまた課せられるものも大きいだろう。だが間違えるな。力を求める事を故に世界など背負わないほうがいい。例え力を得ることとなろうとも自らに過ぎた力はやはりその力によって己を滅ぼすだろう」 全く迷いも無く、一語一語教訓のようにネメアが告げる。 「だが、それでもあえてその道を行くというのならば」 「命一つの貸しだと思えばどうと言う事もない。それに俺は運命を戦う男の生き様を見たくなった」 「そうか…………。ならばいずれ力を頼る事になるだろう。だが、もし先に自らの為したい事が見つかったのならば言ってくれ。人の運命に無理やりつき合わせるほど私は傲慢にはなれない」 ひとつ間を置いて 「もう一度だけいっておく。何の為の誰の為の力だ。力のみを求めては本当の強さを得る事は出来ない。私に力添えをして一翼を担うつもりがあるなら肝に銘じて欲しい」 自戒めいた一言を添えて、「また会おう。さらばだ」 そういってネメアは部屋を出て行った。 しばらくしてネメアは叔父のエリュマルクを討ちディンガルの皇帝となった。予想通り大衆は彼を簒奪者として扱うどころか、ついに!という趣であった。彼が皇帝になった事で急に彼の戦いの規模が現実のものとして伝わってきたのがわかった。彼は言った。敵は運命。破壊神ウルグの誕生を阻止すると……。 ネメア帝成る。歴史的事変から数日を待たずしてこの一大事変は大陸を席巻した。 前皇帝エリュマルクは討たれ、帝位を簒奪する形で新皇帝が誕生した。 それと同時にネメアは大陸の統一を宣言。旧知の仲であり前皇帝時代からの財務統括ベルゼーヴァを宰相として本土の要とし地方軍として玄武、白虎、青竜、朱雀軍を編成。各方面での戦端が開かれるのは時間の問題といえた。 「で。当の皇帝様は僅かなお供と闇の神器探し。新たな将軍達は既にその力を認められている才女ザギヴやあの名高い名将アンギルダンはともかく一兵卒から成り上がったお嬢ちゃんに得体の知れないコーンス族。そりゃ皇帝様の目利きを疑うわけじゃあないが、なんともバラエティに富んでいてディンガルらしいな」 厳かに当の皇帝が 「力のあるものを抜擢して力に見合う職につける。たしかに難しいことではある」 たしかにここエンシャントを都としたディンガル帝国は能力を重んじる国である。山脈をはさむもうひとつの大国ロストールは大きく事情が異なる。 「それで、俺にはいったいどんな役職がいただけるので?」 「今日呼んだのはほかでもない。その件についてだ」 「てっきり闇の神器とやらの捜索の手伝いをするものだと思っていたのだが……」 どうやら当てが外れたらしい。ネメアは先導するようにエンシャント政庁を進んでいく。 ついて来いと言ったなりネメアの言われるままのこのこと後ろをついてきたのだが、まさかこんなところに連れ出されるとは思ってはいなかった。 「ここだ」 軽くノックをして部屋に入っていく。 「久しいなベルゼーヴァ。といっても私は直ぐにでも闇の神器捜索の旅へ戻るのだが」 ベルゼーヴァ。ベルゼーヴァ・ベルラインの居室という事はどうやらここは執務室になるらしい。 「彼が件の……? なるほど無限のソウルの可能性を秘めている……。だが、まだインフィニティアは手に入れていないようだな……」 「ネメア。俺はこのディンガルの宰相の下で働けと?それは見誤ったというものだろう?俺に役所仕事がこなせるなんて思わないだろう?」 「必要とあらばそれをも辞さない男だということは知ってるさ。なに適材適所というもの。先ほども言った力のある者に見合った職を……だ。詳しくはベルゼーヴァから聞くといい彼が君の直属の上官となるのだからな」 というやいなやあっさりと退室してしまう。 「名を聞こう」 仏頂面で後ろに腰掛けた人間が問う。 「ベルゼルガ。姓は……名乗る必要はないと思う。俺しか血族はいないだろうからな」 「ベルゼルガ? さえない名だな。無限のソウルの可能性を秘めながらネメア様の偉大さが分らぬとは度し難い愚かさだ。まさに名はそのものを表すというがその例外のなさには感服する」 なるほど。この男はどうやらネメアに対する感じ方が違うらしい尊敬を軽く通り越して心酔までいっている様な気がする。 なんともいえない表情を勝手に読み取ったのだろうベルゼーヴァが続ける。 「私か? 今のやり取りを見れば名乗るまでもないが、私はベルゼーヴァ・ベルライン。帝国宰相だ」 「それで帝国宰相殿。ネメア陛下の仰せられた私への任務とは何用でありましょうか?」 「そうだ。それでいい。貴様は私の部下になるのだからな。ネメア様の推薦だからといって私は無能なものを飼おうとは思わない」 不敵な笑みとともに黒衣の宰相は告げる。 何をさせようとしているのかはまだ分らない。だがこの男はとんでもない事を命令しそうではあった。 |
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