きんぐの全豪オープン観戦記

 

 2003年1月、虎の穴本部より全豪オープン視察の指令を受けた“ベールを脱がない秘密兵器”ことキング(以後「K」とする。)は、助手約1名(「クイーンとお呼び!」と言われたので以後「Q」とする。)とともに密かに夜の日本を後にするのであった。

 

 翌朝、飛行機の中で「サイトシーイング」、「ナインデイズ」と復唱しまくっていたQKは、練習の成果を発揮することもなく無事にオーストラリアへの入国を果たしたのである。その後QKは、とある島にて数日間身を潜めた後、シドニーで大胆にも旅団から離れ単身…とは言っても二人なのだが、お互い言葉のわからない何の役にも立つはずのない相棒だけを頼りになんとかメルボルンへとたどり着いたのである。そして何気なく見たそのホテルの窓からは、な、な、なんと、正真正銘、本物の「ROD LAVER ARENA」の文字が見えるではないか(ちょっと小さいけど…)。お〜〜なんたる感動!なんたる興奮!とうとうここまで来たのだ。痛っ!夢ではない。明日はあそこへ行くのだ。と、嬉しくなったKが思わずベッドの上で4度飛び跳ねたかどうかはQのみぞ知るところである。あ〜明日が待ち遠しい。早く明日よ恋。否、来い。そんな胸の高まりを押さえつつ、メルボルンの街へと消えていくQKであった。

 

 2003年1月15日、オーストラリア滞在6日目にしてついにQKは、虎の穴四大聖地の一つ、メルボルンパーク・ナショナルテニスセンターへと足を踏み入れるのであった。その時Kは「有明コロシアムにも行ったことがないのに本当に入っていいのだろうか。」と少々戸惑い、そして不覚にも舞い上がってしまったのである。

 今回、黒幕じゃなかった黒マックの命令を受け観戦記を書くこととなったが、さて何を書いていいのやらさっぱりわからないK。もともと筆不精のKのこと、思いつくまま支離滅裂なものとなるであろうが、すべてはミーハーなKを指名したマックの責任ということでご勘弁頂きたい。

 

 さて、QKが観戦したのは大会3日目、4日目にあたる2回戦である。我々虎の穴にとっても大きな1歩となるその記念すべき第1戦は、「ロッド レーバー アリーナ(RLA)」で行われた女子シングルスのJ.エナン選手 vs  A.クルニコワ選手であった。さすがはメインアリーナ、すぐ目の前で見るというわけにはいかなかったが、女子といえどもその大きさ、そのスピードには目を見張るものがある。一体どうすればあんなに速いボールが打てるのか。どうすればあんなにボールが跳ねるのか。どうすればあんなに疾く動けるのか。もう信じられない。ネットと思ったボールが相手コートに突き刺さる。アウトと思ったボールがラインを襲ってくる。エースと思ったボールに届く。いや、届くだけではない。エースを奪い返すのだ。ちょっとオーバーかもしれないが、まさにそのとおりなのである。もぉ〜〜。はぁ〜〜。言葉にならない。試合は、バックハンドが打てないKには超うらやましいJ.エナン選手が、男性ファンを虜にしているA.クルニコワ選手を6-06-1でやっつけてしまったらしい。らしい…と言うのも、SHOWコート(SC)2でQのお目当ての一人、杉山愛選手の試合があったため最後まで見なかったのだ。残念!

 

 日本人bPプレイヤーとして果敢に戦ってくれた愛ちゃん。残念ながら、ロシアのペトロワ選手に4-64-6とストレート負けを喫してしまいました。第1、第2セットとともに先にブレイクしたのですが、いまいち調子に乗れず逆転を許してしまいました。惜しい〜。悔しい〜。でも、最後まであきらめず、本当にがんばってくれました。ありがとう!

 ところでこの試合、Kは日本人の団結力に感心しました。さすがは日本人という感じで、誰かがリーダーとなり声をかけるととたんに起こる「ニッポン!チャチャチャ」。こういうまとまった応援は日本人のお家芸かなと思ったら、その後韓国のリー選手にも起こっていました。もちろんチャチャチャじゃなかったけど。

 

 さて、愛ちゃんの試合も終わり、Qのもう一人のお目当てA.アガシ選手を見るためRLAに戻ると、試合はなんとすでに第2セットが終わっているではないか。ひぇ〜〜。しかもタッチの差で第3セット第1ゲームが始まり、QKは入口階段下で3ゲーム終わるのを待つ羽目に……トホホ。やっとのことで席に着いたらスコアは3-0。当然(リー選手ご免!)アガシ選手リード。ガーン!このままではあと3ゲームしかアガシを見ることができないのか?がんばれリー選手!負けるなリーーーーー!という願いも空しく、試合はその後も一方的で、アガシ選手が3ゲームを連取してあっさりと終わってしまったのだ。ボー然とするK。強い!強すぎるぜアガシーーーー!!結局この試合、アガシ選手が失ったのは第1セットの1ゲームのみ。完璧?

 この時Kは思った。アガシ、優勝するんとちゃう!ホント。それと、アガシ選手が人格者ということ。アガシ選手はコートチェンジの際、相手選手が先に通るのを待っているのだ。エライ!そして、やはりアガシ選手がデカいということ。テレビの中のアガシ選手はそんなに大きそうに見えないけど(Kだけがそう思うのか?)、実際のアガシ選手はやはりデカかった。すごい肩幅をしていた。隣にいるQの目が、ううん、ハートマークに……。

 でも、そんなに強すぎるアガシ様でも、すべてのショットでウイナーを取りにいっているわけではなかった。リー選手のグッドショットにはつなぎのボール(といっても十分厳しいと思うのだが…)を使い自分のバランスを立て直す時間をかせいだり、スピードボールを有効に使うために敢えて緩いボールを交えたりと、強い人ほど基本に忠実なのかなと改めて思ってしまったKであった。

 

 そして、夜というより夕方といった方が良さような明るさの1930からRLAでは、ナイトセッションとして2試合が組まれていた。第1試合は、A.カーギル選手 vs V.ウィリアムス選手の対戦だったが、この試合、V.ウィリアムス選手のパワーが炸裂!6-36-0と53分で終わってしまった。しっかしV.ウィリアムス選手のパワー、どうみても反則ちゃうの!って怒りたくなるよね。

 

 引き続き行われた第2試合、地元の英雄“スカイマーク”ことM.フィリポーシス選手 vs P.スリチャパン選手。この試合、Kが観戦した中ではベストマッチであった。パラドン・スリチャパン選手、アジアにこんなすごい選手がいたなんて……。テニス雑誌を読まなくなって久しいK勉強不足でございました。反省!!

 Qは、前日に見たテレビ番組にお寺で合掌するスリチャパン選手の姿が映っていたせいか、同選手をインド人かなと言っていたが国籍はタイのようである。公式パンフレット(英語で書いているんだぞ!)によれば、身長185cm、23歳のタイ人で、2002年スタート時はATPランキング116位だったのが、終わってみれば16位と最も進歩した選手として紹介されている。そして、今大会には第11シードとして臨んでいるすごい選手なのである。

 試合は、相手が地元の人気者とあって当然観客の多くは相手ファン、特に女性ファンの熱狂的な応援は凄まじいもんだった。そんな中、冷静に淡々と試合を運ぶスリチャパン選手。かっちょえぇーでぇー。しかも力強い!そのサーブは正に上から叩き潰すように打ち込み、そのフォアは躍動感に溢れ、そのバックはくぅ〜〜しびれる〜〜。ストロークではフィリポーシス選手を圧倒し(ちょっと言い過ぎかな?)、相手がネットに出てくれば、その度にまるで計ったかのごとくバックのパッシングショットをショートクロスへと決める。サーブも負けてはいない。相手はあの“スカッドサーブ”のフィリポーシス選手。しかし、スリチャパン選手のサーブは、その上にメガトン級のパワーを加えたようなものである(これも言い過ぎ?)。

 残念ながら、結果は第4セット、第5セットと終盤の大切なところでブレイクを許し敗れはしたが、本当にすばらしい試合であった。フィリポーシス選手、そしてスリチャパン選手、ありがとう。本当にありがと〜〜〜。しっかし、フィリポーシス選手への声援、第4セット、第5セットのスリチャパン選手のサービスゲーム前に起こったあの声援、会場がわれんばかりのあの声援は本当に凄まじかった。あの声援の後、スリチャパン選手はゲームを落とすこととなるのだから……がんばれ、スリチャパン選手!泣くな、スリチャパン!!あなたの自信に満ちたプレー、堂々かつユーモア溢れる仕草は、間違いなくQKを虜にしてしまいました。罪なヒト!これからも応援しまっせ!!

 こうしてQKの観戦1日目が終わったのである。そのとき時計の針は23時半を指していた……合掌!

 

 観戦2日目は、女子bPにして第1シードのS.ウィリアムス選手 vs E.カレンス選手で始まった。S.ウィリアムス選手は、1回戦は不調で苦戦したようだが、この試合は快勝と言っていいだろう。6-46-0とそのパワーを見せつけた感じであった。

 

 その後、QKは「マーガレット コート アリーナ(MCA)」に場所を移し、女子ダブルス1回戦を観戦する。自称ダブルスプレイヤーのKにとって、僭越ながらこの試合が一番参考になった。と言ってもあまりにもレベルが違いすぎるが……。対戦カードは、カサノバ・プラット組 vsナブラチロワ・クズネツォワ組であったが、中でもやはりM.ナブラチロワ選手のプレーには考えさせられることが多かった。コースを狙ったサーブに華麗なボレー、決して浮かないリターンにアグレッシブなリターンダッシュ、そして技術に関係なく今日からでもできること、それは自分自身の中で勝手にポイントを終わらせないこと。あきらめないのはもちろんだが、決まったと自分で勝手に決めつけないこと。テニスは相手のいるスポーツだ。観客の誰もが決まったと思うボールを返されて驚いていても、ナブラチロワ選手だけは返ってきて当然とばかり涼しく反応しているではないか。そして難無くフィニッシュ!御見逸れしました。なんたる集中力!小生ごときはガッツポーズを考えているでありましょう。そして慌てふためいてのネット。目に浮かぶなぁ〜。ボールは返ってきて当たり前なんですよね……。

 試合は、5-76-16-3でナブラチロワ・クズネツォワ組の見事な逆転勝ちでありまする。

 

 場所は18番コートへと変わり、QKは再び杉山愛ちゃんを応援するのであった。ダブルスだけど……。でもなんで18番やねん。杉山選手やで。No.1にもなった世界の愛ちゃんやで。センターコートでせんかい!でも、おかげでまん前で見られたけど。ほんますぐ目の前で見ても〜た。全豪オープンやで。四大大会の一つやで。こんな目の前で見てえんかいなって感じ。愛ちゃんの息遣いまで聞こえてきそうや。愛ちゃんは今大会をK.クライシュテルス選手と組んでいるが、1回戦はマスグレーブ・タナスガーン組を6-47-5と撃破してしまった。やった〜。おめでとう、愛ちゃん!!愛ちゃんは、躍動感に溢れていましたでぇー。迷コンビ、いやいや今回はきっと名コンビのこの二人、一体どこまで勝ち上がってくれるのであろうと思っていたところにQの一言。「お腹すいた。」、その一言でKは後ろ髪を引かれながらも、一時メルボルンパーク・ナショナルテニスセンターを後にするのであった。

 

 余談だが、QKが向かった先は「むらさき」という和食屋さんであった。さすがに日本食が恋しくなり、事前にリサーチしていた「むらさき」さんへお邪魔したのだが、このお店、おいしかったです。しかも、店員さんが日本語を話してくれるので安心して食事ができるのだ。久々の日本食ということを差し引いても、本当においしかったなぁ〜。日本人の有名人もよく来るらしく、壁には色紙がずらりと飾られておりました。場所は、QK泊まったグランドハイヤットの一軒隣である。グランドハイヤットといえば、選手御用達のホテルであるが、ここでもKは事前の勉強不足で悔しい思いをする。恐らくはロビーで有名選手に出会っているであろうに誰だかわからない。なんたる不覚!ツーショットの可能性もあったのに……。ちきしょーーー。今度来るときはもっと勉強してくるぞ!ううん?今度…今度はあるのかなぁ?ねぇ〜Qさま〜。

 

 さて、再びナショナルテニスセンターへ現れたQKは、RLAでのナイトセッションで、世界No.1にして地元の英雄“レイトン・ヒューイット”を目の当たりにする。相手は同じく地元のT.ラーカム選手。試合は、ラーカム選手の負傷(かな?)を差し引いても6-16-06-1と一方的なヒューイットペース。まさにお手上げ…といったラーカム選手の表情。ほんま、ヒューイット選手の腰の低くて素早いフットワーク、豪快なスィング、そしてあのファイティング・スピリットは見る者を魅了するであろう。地元の期待を一身に背負い、来年こそは悲願のタイトルを手中にできるかどうか……神のみぞ知るところである!

 また、この試合の後、ヒューイット選手へのインタビューがあったのだが、インタビューをするのは、なんとあの天才ジョン・マッケンロー氏である。なんとまぁー贅沢なツーショット!な〜んか得した感じ!!

 

 その後、女子ダブルスの試合を見ながら、QKの夢のような2日間は終わっていったのである。夢ならばいつまでも覚めないで欲しい……。そんな願いを思いつつ、本当にいつまでも続いて欲しい2日間であった。が、ちょびっと後悔もしておりまする。もう少し情報を仕入れておればもっともっと充実した2日間であっただろうと。でも本当に興奮し、感動した2日間でした。ありがとう、メルボルン!来年も来るぞー、いや来たい、お願い来させて、Q。と心の中で叫んでいたKであった。

 

 ところで、この全豪オープンテニス、センターコートは開閉式の屋根を備える「ROD LAVER ARENA(ロッド レーバー アリーナ)」と呼ばれ、その次に位置付けられるのが同じく屋根付きの「VODAFONE ARENA(ボーダフォーン アリーナ)」である。その他に、観戦席の付いた「SHOW COURT(ショウ コート)」が第1から第3まであった。が、今年からこの第1コートは「MARGARET COURT ARENA(マーガレット コート アリーナ)」と名付けられたので、SCと呼ばれるのは第2と第3のみになってしまった。そして、グランドコートと呼ばれるコートが第4から第22まである。このグランドコートにも数は少ないが観戦用のシートはあったのだ。ボーダフォーン・アリーナには入場できなかったのでわからないが、センターコートのRLA以外は、本当に目の前で選手を見ることができるのだ。これには本当に驚かされてしまった。

 また、大会は、日中に行われるデイセッションと夜に行われるナイトセッションに分かれている。ナイトセッションでは、その日のベストマッチと思われる試合や上位にシードされた選手の試合が行われるようである。そして、ナイトセッションが行なわれるのはRLAのみであるようだ。

 QKが手に入れたチケットは、RLAでのデイセッションとナイトセッションの2種類である。センターコートであるRLAはすべて指定席で、RLAの観戦券を持っていれば、ボーダフォーン・アリーナ以外の全てのコートに入場できるのである。残念ながら観戦席はアッパーレベルで、上下2層に分けると上方であったが、それでもUSオープンでいうところのミドルレベルに相当するらしく、そんなに遠いという感じはしなかった。かな!?また、この観戦券(グランドパスでもOK!)を持っていると市内からメルボルンパークまでのトラム代(路面電車代)が無料になるのだ。すごい!駅にして4つか5つかな??

 ナショナルテニスセンター内には飲食店はもちろんのこと、あちこちに土産物(オフィシャルグッズ)を売るテントが立ち並んでいる。ナイキの大きなテントもある。アトラクションコーナーもあり、サーブのスピードが測れたりいろいろなゲームもできるのだ。そしてなんとカジノまであるのだ。というか試合の勝ち負けが賭けの対象になっているのだ。

たぶん……。本当にすごいところであった。

 

 今回、虎の穴本部の指令を受け全豪オープン視察へと飛び立ったQK。当てにならない者が二人、不安でいっぱいでしたが、オーストラリアで会った多くの人々に助けられてなんとか無事に任務を果たすことができました。その一人に、シドニーでお世話になったJTBの星野さんがいます。星野さんはオーストラリア在住15年、テニス歴10年という人でしたが、毎年全豪オープンを観戦に行っているし、行けない時はビデオにとるという大変見習うところの多い人でした。1時間ばかりの短いお付き合いでしたが、テニス談義に大いに盛り上がりました。二人だけで…。ちなみに星野さんは、カルロス・モヤのファンです。しぶい!その他にもお世話になった皆様、本当にありがとうございました。

 

 と、まぁ〜こんな感じで観戦記を終わらせて頂くが、我々虎の穴四大聖地巡礼の旅は始まったばかりである。今後もローランギャロ、ウィンブルドン、USオープンと夢の舞台は続くであろうが、その夢先案内はあんでぃ&かむひやに譲ることとしたい。長々?と、皆様にはこんな拙いものにお付き合いを頂き、本当にありがとうございました。

 それでは皆様、皆様の今後のテニス人生が益々意義あるものとなることを願って、See you again

 でも、メルボルンの朝晩はちょっぴり寒かった!!

 

                   いつかはベールを脱げるようになりたいK

 

 

〔完〕