私的・クランクケース分割方法



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さてさて今回は…少々難しい作業ですが、チューニングでは避けては通れない道であるクランクケースの分割、通称「腰下割り」を解説したいと思います。

この腰下割りは、主にクランクシャフトの交換やクランクベアリングの交換において必要な作業ですね。

ハイチューニングにおいては、クランクケース自体の加工や…大きく掃気通路を変更する、といった目的でも行われます。

ある意味、個人で出来る作業の中では最大級の難度を誇ると思いますよ。


この腰下割りは、どんな作業がこれ以降に待ち受けているとしましても、最初から最大の「精度」を持って望むべきだと私は思っています。

…またいつもの語り口になりますが、純正のサービスマニュアルに書いてある方法では、チューニングを前提とした場合…全くもって精度が出せていない所もあるのです。

サービスマニュアルを作成しているのはメーカーさんですので、もちろん全てがダメという訳ではありませんが、「メーカーさんやバイク屋さんの作業が100%正確で最高の精度」だとは思わない方がよろしいかと。

私ももちろんそんな「究極の精度」が出せるワケではありませんが、それに近い作業が出来る様に日々精進しております。


そんなスタンスで行われている私のクランクケース分割作業ですが…皆様の参考になれば幸いです。

いつもながら…「最低限の基本的な事柄」は割愛していますのでよろしくお願い致します。

はっきり言ってやりすぎと思われるかもしれませんが…それでは解説を始めますね。



いきなりですが…クランクケース分割にあたっては、「特殊工具(スペシャルツール)」を用意する事から初めましょう。

私らしく無いですが、これは先程も申しました様に「最大限の精度」を出す為にはやむを得ないんですよ。

「腰下を分割する」のが主目的ではありませんし、何より無理にクランクシャフトを叩いたりして、別の所にダメージを与えてしまっては本当に元も子もありませんからね…

ですので、最低限自分のエンジンに合った特殊工具、「クランクプーラー(セパレーター)」や「インストラポット」を用意した方が良いです。


…厳しい言い方になりますが、こういった工具&ソレに近い自作冶具が無い場合は、無理矢理クランクケースを割って芯出しレーシングクランクを入れた所で、まずまともには組めません。

ですので全てにおいて最低限の特殊工具は必要なんですよ。

クランクベアリング交換が主目的な場合でも、、全体的な「精度との戦い」は、ケースを分割する時点から始まっているのです…


特殊工具・略して「特工」(笑 いきなりですが、特殊工具の出番です。

今回使用したのは、巷で噂の「カムイ二輪館」製のホンダ用ツールですね。

…パッと見通り、板に穴が空いただけのモノでしたが(泣

ヤマハのプーラーが合いそうなので買ってみたら、見事にジャストフィットでした。

板なのに高かったですけどね…


コレはクランクケースからクランクシャフトを押し出している所です。

このツール(というか板)、ヤマハのプーラーを持っていれば結構使えますよ。

(黒いのがヤマハ製汎用プーラーです)

カムイ二輪館で売っているこのカタチのプーラーも、おそらくヤマハ純正品と同じではないでしょうかね。

…値段も同じですし(笑

ちなみにカムイ製のインストラポットも、ヤマハ純正品本体に、最低限のアダプターが付けられているだけだと思います。

ヤマハ純正はアダプターがたくさん付いてますが、その分割高(確か13000円位)なので、インストラポットをこれから買う人はカムイ二輪館製品をおすすめしますよ。

後、ホンダ車をバラすなら…ホンダ純正品の三角プレートタイプの冶具はもう手に入りませんし、新型の三叉式プーラーを買うよりはトータルでお徳かと。

スズキ製の物でも良さそうですが…アレも結構高いですしね(汗

あ、言い忘れてましたが…今回の作業の犠牲車はホンダ縦型エンジンです(笑

ホンダエンジンはクランクプーラーを噛ませるボルト穴が対角線上に無いのが困りモノですよねぇ…


えーっとここで一応宣伝とか(笑

1車種のみの作業範囲が限定されたインストラポットや特殊治具をお求めの方は…

プライベーターの定番治具の総本山、山田商会へどうぞ〜


…話が脱線しましたが、こういった工具か冶具を使わないと、クランクシャフトの脱着はほぼ不可能だと思って頂きたいです。

クランクシャフトを再利用しないのなら…叩いて抜いても良いのでは?と思われるかもしれませんが、もし叩いて抜いて、ベアリングがシャフトにくっついて来たらどうしますか?

「ケースにベアリングが残った」場合だと、きちんとシャフトだけに叩きの衝撃が加わったはずですが、「シャフトにベアリングが残った(くっついた)」場合だと…ベアリングとケースの「はめあい」の部分に多大な負荷が掛かってしまったコトになります。

別にその位でケースが歪むワケでは無いと思いますが、念には念を入れすぎて困る、という事は無いでしょうからね。


オイルシール抜き で、次はオイルシールの抜き取りです。

コレは単純に、シールの内径に合う棒状の物をあてがい、一気に叩けばOKですね。

シールは再利用しませんし、コツコツやるよりは一気に抜いた方がクランクケースへの衝撃も少なくて済むと思います。

この写真で使っているのはソケットのコマですが(笑

あ…「必殺の一撃」に自信が無い場合は…柔らかめのパイプがおすすめですよ。


オイルシールは柔らかい物ですが、外周は硬いのでその部分を一気に抜くのがコツでしょうかね。

もちろん、ケースの下側には負荷にならない様、柔らかい木等を敷いておくのが鉄則です。

個人的おすすめはビールケースですかね。

手に入りやすく、とっても使い勝手が良いですから。


次に…運悪くクランクシャフトにベアリングが残ってしまった場合、私はこうやって取っています。

ここは良い特殊工具が無いのでかなり無理矢理ですが(汗


ギロチンプーラーの変わりにこうやります まずベアリングの外周に、グラインダー等で対角上に切れ込みを入れ、そこをツメ式プーラーで引っ張ります。

ベアリングを挟み込むギロチンタイプのプーラーでは、ツメの掛かりが甘いことが多いんですよ。

ウェブとベアリングのクリアランスもほとんど無いですし。

プーラーのツメを加工しても割れる場合がありますしね。

その点、このプーラーなら壊しても安いですから(笑


こうやって対角に「切り欠き」を入れたベアリングをツメ式プーラーで引っ張るワケですが、場合によっては切り欠きに合わせてプーラーのツメを加工しておくのが良いでしょう。

そうやった方が作業の確実性が上がりますしね。

そしてこの写真、クランクウェブを万力で挟んでいる様に見えますがそんなコト無いですよ(汗

これはプーラーが「横に開く」のを抑制するため、左右から押さえ込んでいるんです。


ここでのツボは…「ベアリングの内輪を熱しておく」というコトですね。

シャフトとベアリングとはいっても、運が悪ければかなりの力で固着していますので、バーナー等でクランクベアリングの「内輪」の部分を炙って膨張させてやります。

そうすると驚くほど「スポ」っと抜けますよ。

最初にベアリングをツメ式プーラーで保持し、万力にセットした状態で引っ張りのテンションをかけ、そこから炙っても良いですね。

(再利用する場合、出来るだけクランクシャフトは炙らない方が良いかと思われます)


さて、シールが外れたら…ケース側に残ったベアリングを取り出さないといけませんね。

これは一般的ですが、「熱膨張」を使って取り外します。

ガスコンロ登場
これはどこのご家庭でもあると思われますが、ガスコンロですね。

これを使ってケースを炙り膨張させ、ベアリングを抜きやすくするワケです。

本当はガスコンロでは無く、ニクロム線を使った「電熱器」が良いのですが…私持ってませんので(汗

(このあたりのメリット&デメリットは後述します)



ケースをコンロに載せて熱するワケですが、この時には「弱火」でトロトロ煮込みましょう(笑

一気に熱を加えてしまうと、全体が均一に膨張せず、ケースにヒビが入る可能性が…ほとんど無いですが(汗

最初に申しました通り、「精度との戦い」がコンセプトですのでご了承下さいね。

(ちなみにこういう風にケース合わせ面を直接コンロ台に置くのは良くありません。網等を使いましょう)


ここでのコツは…上手くベアリングの外周部分に炎が当たる様に炙る事でしょうか。

ベアリングを炙ってしまったらベアリングが膨張してしまいますので。

(とはいっても、鋳物のケースの方が膨張率は高いので問題無いLVですが)


そして…どの位熱せば良いかですが、時間にして10分〜15分位でしょうか。

これは結構シビアですので…ここで私の必殺テクニックをご披露致します(笑


ケースをコンロに置き、熱を加える前に、ベアリングが入っていると思われる部分のケース表面の場所に、少しだけ水を垂らしておきます。

何故水を垂らしておくのかと言うと…最適なベアリング取り出しタイミングを計るためなんですよ。

私の経験では…ケースを熱し続け、この水滴が蒸発する位の温度がちょうど良い、と思います。

あまり熱しすぎると…こうなります↓

ベアリング落下(泣

熱しすぎた場合、「パキン!!」という金属音と共にベアリングが落下します(汗

パキンという音がした場合…ケースは膨張しすぎですね。

右側ケースの様に体積が小さい物でしたら、膨張しすぎても「全体が熱せられている」と解釈出来ますが…

左側ケースの様な長い物体だと、ベアリング周辺部分のみが極度に熱せられている場合がありますので。



こうなった場合、わずかでもクランクケースが歪んでしまった可能性がありますよね…

なので特に左側ケースの場合、ガスコンロでは無く電熱器でじわじわ温めてやるのが良いと思います。

ちなみにストーブでも良いですが、無茶苦茶時間がかかりますね。


この「パキン!!」と音がしてベアリングが落下する症状は…水滴が蒸発してすぐ起こる場合もあります。

ですので水滴が蒸発し始めたらすぐに火から下ろし、ベアリングを抜きましょう。

このタイミングは難しいですが…ベアリングが落ちるまで火にかけ続けるのはあまり良くないと私は思っていますので。


パイプで押し出します そしてケースが冷めない内にベアリングを抜きます。

この黒い棒は、ただの樹脂パイプですが(笑

ベアリング内径に合ったパイプを用意し、「スコン」と押し出してやります。

(この場合、オイルシール挿入部分にキズを付けない様にするため、柔らかい素材が良いですね)

…ケースを適温まで熱していたら、叩く必要は全くありませんので。


ベアリングが抜ければ…後はダウエルピンを抜けば作業は終了です。

これで全ての「腰下割り」の作業が終わりましたね。


出来ました 今回の作業では、クランクベアリングは左右ともケースに残りましたよ。

ケースにベアリングが残る、という事は、ベアリングの「共周り」がほとんど無かった、という事になりますね。

(「共回り」と言うのは、ベアリングがクランクケースでは無くクランクシャフト側にくっついて一緒に回ってしまう、といった感じだとお考え下さい)

スクーターの場合、特に左側はベアリングの共回りが多いですので…このクランクケースは良品だと判断出来ますね。


私の場合、クランクケースの劣化具合を判断するのに、ベアリングがケース&シャフトのどちらに残るか、という事も判断基準の一つとしています。

「次」を考えた場合、左側のケースでベアリングが回った形跡があるエンジンでしたら…ちょっと気になりますのでね。

あんまり無いですが、古い&ベアリングの入れ方が悪かったケースだと、ベアリングを抜いた後に目視で「ベアリングの回り跡」があるケースもありますよ。

クランクシャフトがブレブレ&ベアリングのクリアランスがきつすぎた、という原因もありますが…

最低、右側のケースにベアリングによる「回り跡」があったなら、そのケースはもう使わない方が良いと思います。

(この場合、左側はかなり回った跡、と言いますかキズが付いているハズです)

そんなケースに良いベアリングを装着しても、絶対的な性能が出せるとはとうてい思えませんので…



長くなりましたが、今回の作業はここで一応区切りをつけておきたいと思います。

ただケースを割るだけでこんなにめんどくさいのは…「意味無いぞ阿呆」と言われるのは分かりきっていますが、個人的にはこういった工程を踏んで腰下を割っていると思って頂きたいです。

…他のコーナーの「腰上の組み方」等も同じですが…「せっかくだからきちんとしたい」というのが本音なんですね(笑


では最後に一つ。

通常、バイク屋さんに腰下の分割を頼んだとしても、こんな風に気を使ってはくれない物なんです。

いちいちこんな面倒くさい事をしていたら、それこそ時間工賃がバカになりませんからね。

(このあたりは私の作業工程とサービスマニュアルの作業を見比べて頂ければ良く分かるかと)

基本的にバイク屋さんは、全部が全部ではありませんが「動けば良い」のスタンスですので、自分で腰下割りを実行しようとされる方は、ある程度気を使って精度を出す方向に努力をした方が、結果的には良い&面白いです。

…私も昔は、「本職のバイク屋さんの精度は最高」だと思っていて、色々手酷い目に合いましたからね(汗

またケンカを売っている物言いになりますが…ドライブフェイスの脱着にエアインパクトを使用するお店だと、私は「作業精度」においては信用しません。

「スクーターだからこんなもの」だと思われているとしたら余計にイヤですし、何よりスクーターを舐められているのは嫌いですのでね(笑


では…次回は続編としまして「クランクケース&シャフトの組み方」について解説したいと思います。

あ…このエンジンは少し時間を置いて組みますので、次回更新は少々お待ち下さいね(汗

次回も私の必殺テクニックが炸裂する予定ですよ(爆


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