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昭和二年
入所 昭和三四年・大島青松園
吉岡晴夫
代筆を頼むにはばかる手紙にて乏しき視力凝らしつつ書く
人に読みもらふ視力になりしより妻の便りの型にはまれる
我がために妻が送りて来し浴衣開眼手術の今朝手を通す
1メートル離れし医師の指の数われに読めたり手術せし眼に
癩園にわれ入りてより労多き妻の白髪のとみに増えにし
人気なき道を選べり癩園に帰りゆく我と見送る妻と
撞きたての大き飴餅五つずつ配りくれたり旧正月に
哺乳瓶の乳むさぼりて飲む孫の乳首はなさず呼吸を整ふ
病み崩えし母を疎みしその癩に我も罹りて十五年経し
検診を受けにきし子が置きゆきし八朔一つ夜の灯ににほふ
出稼ぎに疲れおらむか今日くれし妻の便りの文字乱れいる
海風にあふられつつ敷藁をしかと掴める西瓜の蔓は
浜木綿の匂ふ渚に佇みて面会に来る妻の船待つ
騒ぐ思ひを鎮めつつ友に読みもらふ常よりも厚き妻の封書を
出稼ぎの合間に妻の作りたる稲穂は垂れて風に揺れをり
探りつつ床をのぶるも現身のわが事として過ぎてゆく日々
癩を病むこの身のゆえか手紙みれば妻は職場をまた変へている
料亭に職を求めてゆく妻を病めるこの身の止める術なし
眠らぬとする我の眼にちらつける妻の働く料亭の灯が
癩を病むわが悲しさよ病み臥せる父を見舞ふに日の暮れて行く
関節の痛みのあまり服みつげる薬に飯の味変わりたり
頓服に痛みやはらぐ両の手を布団に入れて眠らむとする
夜の更けて沖に汽笛の遠く鳴る危篤の妹が我を呼ぶがに
この春は笑顔で別れし妹の新しき墓の前に立ちいつ
稲を刈る手をとめ妻はだしぬけに離れて暮らす寂しさを言ふ
眉を描き紅をはかれて君はいま柩のなかに入れられむとす