陽に透けて窓の藤葉のさゆらげる音もかそかに秋深まりぬ
満開の桜匂へる下に来て我のリヤカー止めてくれたり
いくたびか背負われて来しこの藤に今年は杖をつきて見にきぬ
よく滑る不自由者センターの長廊下五人目の怪我は婦長がしたりき
水清く激つ流れの涼しさに義足ゆるめて暫し憩はむ
憧れの本土の土を今日は踏む義足なれども革靴はきて
除夜の鐘今年もきかず年迎ふ鎮痛剤の利きて寝ねしに
ひと日だに薬服まざる日はあらじ六十年の長き我が病み
松葉杖つけばどうにかめしひ等に遅れず歩む桟橋までは
三五年の父の忌日のめぐり来し今日は黙して損もこらへぬ
原稿紙届けくれたりその包み病みし片手に持ち上らざり
村人等見送りくれしその駅がああ見えてきぬ四十一年弐箇月ぶりに
バイブルをしかといだきて出て来たり傘の持てねばコート冠りて
看護婦とくちずけしたる夢さめてうたた寝の後のこのけだるさや
散歩より帰り来たりて脱ぎ捨つる我が分身の義足も温し
新聞を長く読みいて口渇く友等待たせて湯を飲むタバコも吸ふ
島静かに生きる仕合はせ五十年父のよはいをはるかに越えて
湯の熱さ舌に確かめ薬服むかかる仕草も思へば長し
伐られたる松の太さになるころの島思いつつ小松を植うる
古びたる我の義足のきしむ音小鳥鳴く如しと人は言ふかも
看護婦の名前きけども直ぐ忘る今日より我らのために来つるに
春来れば島も花咲く鳥も鳴くああ五十二年わがせしは何