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大正十二年
入所 昭和二三年・大島青松園
政石 蒙
塩辛き井戸水のみの島に棲むここのなめくじは塩にもとろけず
靴履くとかがめば鈍き羽音して靴の中より蝿とび出でぬ
新しき霊柩車とり巻き一番に乗るは誰かなどと気軽に笑ふ
らいを病みいのちを断つもありふれし悲劇とわれの昂ぶりている
療園の夕餉は早し工事場に働く人に戸を閉めて食ふ
いちめんの浜昼顔を伝えむとふりむけばすべて眼の見えぬ友
ばら園の下草を抜く少女たちをりふし花の中に背伸びす
肩揉みてくるる童女の出っ腹がわれの背中を温かく圧しくる
膝のうへに乗りきし童女子をもてぬわれの父性に囁きかくる
ころころところがる赤き毬を追ひ童女はいまか羽搏くならむ
ぼやぼやしているようで他の子らに負けないだけの悪戯はする
八年の寮父勤めに疲れつつ所詮はらい病む躯と思ふ
らい癒えて街に働く教え子がをりをり寄越す住処なき手紙
戦場に果つるをひたに願いいきひそかにらいを病みいしわれは
無力なるわれに来たりてかなしみを積み重ね行く汝も弱くして
莨喫ふマッチをすりてくるるさへたまさか逢えばいのちにひびく
生活に荒れたる指にむかれゆく林檎の皮の白き内側
一生を面会妻にて終わるべし言い出でて汝の深き眼にあふ
なよなよと危うきさまに見えながら萩の若芽の伸びゆく早し
松は松を生きて到りししずけさか落葉掃きつつ身の引締まる
有名の故に自由のなき嘆き病みて自由なきわれら聴きいる
石みちをゆく白杖の音さびしつきゆくとなくうしろを歩む
校正に働くわれに気兼ねしつつ盲ひの編集員らつくねんと座す
送られきたる形見の兄の袷秋まだ暑き畳にひろげぐ
十年をひとつの部屋に起居しつつ心通ふといふにもあらず
ふるさとへ向かふ列車に揺られつつ心ゆれつつ運ばれてゆく
日溜りに似るあたたかさ肉親ら帰郷のわれを囲みさざめく
父の声きこえふるがに寂かなり生家の跡の栗の林は
らい家族として見られいる嘆きなど言わざる姉の白髪が光る