明治四五年〜昭和三四年
入所 昭和一〇年・大島青松園
小見山和夫
丹念に磨きしレンズ目にあてて読みつがむとす午の陽のうち
一つ部屋に騒然と生活し耳朶の熱くなるまで弧りを守る
バゼクトミー是非を論ずる若きらと女体には凡そ縁遠き我と
たはやすく明日の希望をプロミンにかくると言えば危うからむか
この子らの女とならむ幸の日にプロミンよりも良き薬いでよ
何処までを信じて政治につながらむ癩者われらの投ずる一票
玉抜きし左眼を水に冷やすとき世界はなべてしずかと思ふ
うつそみの人なる我に心眼を開けとぞ言うむごき言葉なり
広き部屋畳さぐりに歩きつつ冬余念なき姿勢を張れり
一つづつ口授する歌を反芻し祈るがごとく居れば心冴ゆ
骨を噛む我がさびしさに触れこねば共に酔ひたる畳に伏せり
口論に勝ちたりと思ふは愚かにて幅広き肩に背負われ帰る
低きところに常に負担は強ひらるる医師看護婦の足らぬ療養所
ちからある春の裸木を揺りてみるあたりに人の居ぬ夕まぐれ
さまざまの時代過ぎたる公孫樹聳え百の蝉声刺す如く降る
いま一息いま一息と眼は明きて本の活字の読める日近し
萎えし手に支えつつゆく傘に降り次第にはげしくなる雨の量
我が義足春泥を蹴りて歩みつつ力はひとり内より発す
常になくはらから遠く恋ほしめり長閑に寒き雛の日の雨
消灯してことごとく闇き病者地区無数自在に鬼火は遊ぶ
冬過ぎし菰解かれて庭木立つああ暢やかに陽のあたりつつ
あららしく風吹くときかへるでの葉はひるがえり羽実かがやく
慣れに生くるは寂しきものを楓の影庭に濃し救癩の日
敵に対ふごとく傘を風にすぼめ行けば明るき海に出てしまふ
さして来しこうもり傘をたたむとき俄かに我の孤立無援なり
束の間の幸せに似てかがやきし寒夕雲も窓にかげりつ
「閉ざされし環境」の中梅ひらきつつましく光る花びら仰ぐ
見通しに並ぶ棕梠の木を移りつつ春の風吹く硬き葉の音
日の伸びて枯れ草の中いちはやく萌ゆる蓬を人は摘み溜む
曇り日の庭の猫柳見ているにをりをり光る不思議な色に