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義弟の選びし曲のオルゴール形見となりて机にありぬ
外套の重みを背に感じつつ思ひつめたる話を聞きぬ
さくさくと柔かき砂踏みしめつ郷土の浜にやっと来にけり
海苔の手入れ施すモーターの音止みしとき春めく思ひ
友がくれし貝が磯の香匂はする風邪癒えきらず籠れる部屋に
玉ちゃのほろ苦き味かみしめぬけだるき我に六月はきて
黴くさき寝具を土用の日に干していくらか我の心ほぐれぬ
老松を切り除きたる我が部屋に秋の日差しが眩しく射しぬ
手探りに湯飲みの形たしかめる秋の旅行の友の土産の
季節はずれの寒さに老母の神経痛ふと気ずかいて受話器をとりぬ
早出しの郷里の西瓜をこの年もベッドの上で味はいており
鰆獲れし話も聞かず五月は過ぎぬ不漁続きの故里を思へり
枕もとのラジオ止めて確かむるどこかで我を感じして
職員看護も受くることなく逝きし友古き資料に生きいきと在り
盲ひわれ少しの揺れにもよろけつつロープウエーの中に立ちをり
しみじみと芋茎の歯ざわり懐かしむ帰るなき土佐の夏泛びきて
朝早く騒がしく洗面する音す友ら皆老い目覚むる早し
白杖に確かめ歩く道の辺の花壇に今日は柵ができいる
三叉路を曲がりしときに海からの四月の風が意外に寒し
轟音をたててい往き交ふダンプカー探り慣れたる道に惑へり
機関紙をだしたる頃は亡き友も生き残るわれらもみな若かりき