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明治四三年〜年
入所 昭和五年・大島青松園
井上真佐夫
疾む妻も病まざるわれも共どもに患みて見えざる病と闘う
死刑日待つといえば拡張か乳癌の検体検査を怖れ待つ妻
京大病院に入院する妻によき兆しといいて励ます快晴の今朝
疾む妻を気遺い目守りし習慣つきて妻居るごとく醒めし眼がゆく
反核の草の根の声潮騒とも松籟とも充ちて遠蝉しぐれ
生まれ変わりのちの遠世のかわり様見たく思えりわが癩病まず
誕生日に贈られし折鶴吊おけば起居に時に触れて飛翔す
バースデー祝わるる稀な園にして祝われて老いのいのち愛しむ
八方にらみと言う竜の目に見られつつ場所変えてまこと睨みいる竜
のど病める苦患極まり声出ねば応えなく唯掌会わすのみ
呼吸苦しさうつたえる妻をおろろと見守るに遅し注射の効き目
心臓発作の妻看ておれば不意に窓を叩く夜風の音に怯ゆる
ころころと声まろばせるうぐいすの次の声待つ今日のゆとりに
呼吸ひそめしごとき老人病室に今朝は風入りてカーテン動く
呼吸のたび歯のなき唇出で入りて病床に曳く影もいきする
癌の病巣箸に触れつつ骨揚げぬ火葬のあとも目に在る苦患
闘病五十年八十三歳越えこえしその幾山河思う冥せよ
腰痛に起ち居苦しめば我が立つによいしょと傍らに妻が声掛く
ギックリ腰かばう歩みの不意にしてつまずきし時疾み虚を突く
われも妻も何処かに痛みを常持ちてしかめし顔を見合わせ笑う
よぼよぼの老躯かばい会う妻とわれ若き日は見落としいたる安らぎ
笙篳篥あたかも吹けり今日何に興じるやわが耳鳴りの中
縊死の君の傍らに動かず身に余りし悲しみ凝縮に似て岩一つ
関節の痛む夜ものに縋り起ち腰のばす時ポキと骨鳴る
腰椎傷め臥しいて離れざるものに啼く虫の音と耳鳴りと今
老化させてなるかと如く肩甲関節周囲炎ほぐす牽引はげむ
靴につけし鈴の音やさし俄か盲の君が手引かれ歩むに鳴りて
妻のわれも病む「五十肩」病名ながら杳く遺りたるその五十恋う