高速道路が出来、車社会になり所要時間は二時間と短くなったが、気持の中の故郷は四十年前と変わらずに遠いらしい。私達は約束の十時きっかりに、南部さんの奥さんが入院されている病院の玄関先に辿り着いた。そこには南部さんの娘さんが待っておられて、車の中の南部さんを確認されると嬉しそうに走って来られた。

もう十年を過ぎて逢っておられないそうで、車を降りられる父上の手をとり優しい言葉をかけられる。いくつ歳を取っても親子である。手を取り病室に案内される後姿は父親に纏いつく子供の姿に見えた。南部さんはよく口にされる「家内には苦労をかけた。家内には本当に苦労かけた」と、自分は発病したために療養所に入って介護されているが、残った家内は女手一つで田や畑を耕し子供を育て嫁がせた。
家内の苦労に較べたら自分の苦労はと、いつも自分を苛まれる。残った者え注ぐ愛情と限りない感謝の言葉を私は南部さんに会うたびに聞かされる。嬉しそうに父君の手を取られる五十歳になるという娘さんの後姿から、発病で手足の不自由さは勿論、視力まで無くしても一生懸命に生きられる父君えの変わらぬ信頼。残された者への限りない感謝の気持を持たれる南部さんを思い、この家族は大きな試練を乗り越えて素晴らしい家族愛を育んで来られたんだなーと私は心からそう思った。私は回りの偏見差別が霧散してこの家族が少しの歳月でもよい、一つ屋根の下で安穏な時をを過ごされるのを願わずにはいられない。

inoti10
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